イゾラドが去った場所で、集落で飼われていた犬が死骸で見つかったのだ。下腹部に矢が突き刺さり、足は切断されていた。

 この日の後、再び現れたイゾラドはより攻撃的な態度を示していく。3日後には、対岸から鋭い視線をこちらに向け、威嚇するような仕草を見せる。そして、住民がスマートフォンで撮影しているのを見つけると、「あっちへ行け」と石を投げつけてきたのだ。

 何かがおかしい――。その不安は的中する。10月26日、イゾラドは背後から矢を放ち、集落の男性に瀕死の重傷を負わせたのだ。右肩から侵入した矢は心臓から数センチの所まで達したという。

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 住民の男性はこう口にした。

「思い出したくない……」

変貌したイゾラドの謎を追って

 イゾラドはなぜ、攻撃的な姿を見せたのか。私たちはロメルたちと共に、彼らが現れたという、アマゾン最深部の源流域を目指すことにした。100馬力のエンジンを搭載したボートに乗り込み、アマゾン川の支流であるラス・ピエドラス川の上流へと川を遡っていく。

 取材で訪れた時期は通常であれば雨季で、川の水も豊富になりつつあるはずだったが、2024年夏、アマゾンでは大規模な干ばつが発生し、川の水位は低い状況が続いていた。川筋を読み間違えると、ボートが座礁してしまうリスクが高まるなか、船頭が木の棒で川底を探りながら慎重に進んでいく。

 途中、ボートが川底に乗り上げかけると、すぐに乗組員たちが川に飛び込み、船体を押しては前進を繰り返す。30年前までは集落が一つもなかったという源流域の森を少しずつ前進する。

ラス・ピエドラス川を遡る一行 ©NHK

 緊急連絡用に携帯衛星電話は準備してきたものの、この森の中で座礁してしまえば、帰り着けなくなってしまうのではないか、という不安が絶えず襲ってくる。そんな私たちを気遣ってか、ロメルたちは、終始朗らかな雰囲気で話しかけてくれた。その話の中に、私たちの興味をかき立てるものがあった。それは、集落に伝わる言い伝えだった。

 19世紀の終盤、アマゾン川流域に広がったゴム農園。白人の農園主が先住民を捕らえては、厳しい労働を課した。病原菌の免疫がない先住民の間で伝染病が流行し、多くの人が亡くなったという。

 ゴム農園で働かされていたロメルの先祖は、ある日、苦しさに耐えかね、農園主を殺害。自由を求めて逃げ出したという。このとき、上流の街に逃げた一団から離れ、森の中に逃げ込んだ人たちがいた。その一部がイゾラドとなり、今でも森で暮らしているのだ、とロメルたちは教えられてきた。