間もなく2018シーズンも100試合を迎え、終盤戦へと突入する。途中、何度か2位・日本ハムにゲーム差0.0に迫られたことはあったが、ここまで首位を一度も明け渡していない西武は、球宴後からの後半戦、再びギアを上げた感がある。

 そこで気付くのが、活躍選手の名前が、よりバラエティーに富むようになったことだ。高橋光成投手、今井達投手、齊藤大将投手など、将来を背負って立つであろうエース候補たちが復活、台頭により戦力として加わったこと。さらに、新外国人ヒース投手が新たな抑えに据えられたことは何よりの収穫だ。

 だが、それ以上にチームを勢いづけているのが、雪辱に燃える選手たちの奮闘である。

ADVERTISEMENT

「前半戦は迷惑ばかりをかけた。後半戦こそは、チームの力になりたい」
 
 彼らの言葉から、プレーから伝わってくるその思いが、結果を生み出していることは間違いない。

目を覚ました本塁打者・中村剛也

 中でも、中村剛也選手の覚醒は、影響力もインパクトも、あまりに大きい。「もう一度、レギュラーを取れるように。再出発という気持ちで」と満を持して挑んだ今季だったが、開幕から思うように結果は振るわず。加えて、最も避けたかった怪我にも見舞われ、4月22日に登録抹消をされた。ファームでの時間、リハビリと再調整をする中で、試行錯誤し、6月1日に一軍復帰。それでも、すぐには結果が出なかった。結局、オールスター前までの成績は全78試合中35試合出場、打率.171、5本塁打に止まった。決して、感情を大きく表に出すタイプではないため、結果が出ない悔しさや苛立ちを見せることはほとんどなかったと言っていい。

 だが、以前インタビューをさせていただいた際、「(三振や凡打で)ベンチに戻るまでの間は、結構“無”ですね。で、戻っている途中ぐらいからイラついてきて、ベンチに戻って、手袋を外した時に『あ〜、ムカつくな〜』ってなる。家でも、ふとした時や寝る前に、野球のことを考えます。それで、寝られない時もあります」と話していたことを思うと、この前半戦の成績がどれだけ苦しかったことか。眠れない夜をどれだけ過ごしたのだろうと、勝手ながら想像してしまう。

 しかし、そんな自分から逃げず、現在の己と向き合い、変革を決断し、取り組んだことで、今、再びその才能の非凡さを大いに魅せつけている。後半戦は、20試合の全試合に三塁手で先発出場し、打率.333、安打数25本のうちの13本が本塁打という驚異的な数字を残しているのである。しかも、パ・リーグ記録に並ぶ6試合連続ホームラン中と(8月10日終了現在)、まさに量産体制だ。

8月10日の楽天戦で6試合連続本塁打を放ち、プロ野球記録まであと「1」にせまった中村剛也 ©文藝春秋

 シーズン前、「今季のキーマン」として、中村選手の名を挙げていた辻発彦監督は改めて語る。「あいつがサードできちんと座ってくれないと、うちの打線は組めない。本人は決して口には出さないけど、今年はファームに行ったり、試合にずっと出られない時があったりした中で、自分の中でモヤモヤするものが相当あったと思う。年齢とともに自分のバッティングも変えていかなければいけない、進化しなければいけないというところでも、絶対に気持ちは変わってきてると思う。練習の取り組みを見ていても、だいぶ変わったなぁと思って見ていたが、それが結果に出てきた。サンペイ(中村選手の愛称)の活躍は、本当にありがたいよ」。

“獅子脅し打線”と、指揮官が命名した今季ライオンズ打線の中で、中村選手はここまで7番ないし8番に座ることが多い。野手、投手に限らず、チームメイト全員が口をそろえる。「一番ホームランを打つ選手が7、8番って……エグい! 味方で本当によかった」。

 球界屈指の本塁打者が眠っていた前半戦でさえ、12球団屈指の打力を誇ってきた。そこに加え、キングが本格的にお目覚めだ。果たして、チームとして、また、中村選手個人としても、この先どれだけの破壊力で、我々ファンを魅了してくれるだろうか。想像すればするほど、ワクワク感は高まるばかりだ。

 それでも、背番号『60』は、ヒーローインタビューの後ですら、淡々と話す。「バッティングはすぐに崩れるので、これからも1打席1打席、ちゃんと考えながら打席に立ちたい。前半戦、全然、何もできなかった。その分、これから何とか打ちたいと思って毎日やっています」。

 数年前の契約更改の場で「日本で最強打者になりたい」と宣言した言葉を、筆者は密かに信じ続けている。自身も納得の形で、“最強”を証明してくれる日の訪れを心待ちにしている。

数年前の契約更改の場で「最強打者になりたい」と宣言した中村 ©文藝春秋