世界で唯一の“リストカットの傷あと特化クリニック”を開いた形成外科医の村松英之さん(50)。研修医時代には自傷する人への「偏見」を抱えていたが、開業後にその考えが180度変わったという。
研修医時代、夜間の救急外来に来る自傷患者に対し、村松さんは違和感を抱いていた。深く腕を切って運ばれてきても、本人はスッキリとした表情をしていることが多かったのだ。
「普通、ケガをした患者さんはショックを受けたり泣いたりするのに、僕が見た自傷患者さんにはそういう様子がまったくない」。
さらに入院をすすめると抵抗されたり、高圧的な態度を目の当たりにしたりして、「自傷する人は“かまってちゃん”だろう」と思っていたという。
しかし2017年に開業し、半年ほど経つとリストカットの傷あとに悩む患者が増えてきた。多くの患者を診察する中で、自分の偏見が全くの間違いであったことに気づいたという。クリニックを訪れるのは研修医時代のイメージとはまったく違い礼儀正しく、真摯に治療と向き合う人ばかり。そこから自傷について本格的に勉強を始めた。
「リストカットするときに切るのは、皮膚だけはありません」
村松さんが驚いたのは「自傷行為にはメリットがある」ということだ。死にたいくらい辛い感情に襲われて頭の中が混乱状態になったとき、リストカットなどで体を傷つけるとβエンドルフィンなどの脳内麻薬が出て、スッと楽になるという。
「心が辛さに耐え切れないとき、自分の体を傷つけると脳内麻薬が出る。そうすることで『死にたいほどの現実』を一時的に生き延びられるんです」
自傷後は表情が穏やかになることもあり、研修医時代に見た「スッキリとした顔」の理由がようやくわかった。
「リストカットするときに切るのは、皮膚だけはありません。心の中の辛い感情を切り離しているんです」
自傷のことを学ぶうちに、村松さんは自分の過去を思い出した。中学時代、両親の逮捕や離婚、学校でのいじめで「ずっと死にたかった」という。「当時『リストカット』という手段を知っていたら、僕もやっていたと思うんです」。その経験から、自傷する人を「かまってちゃん」と決めつけていた自分は無知だったと気づいた。
村松さんは自傷の傷あと治療として「戻し植皮」手術に積極的に取り組んでいる。これは傷あと部分の皮膚を四角い形ではがし、90度回転させて戻すというもの。「横向き」の傷を「縦向き」に変えるだけで、他人から「リストカットのあとだ」と思われにくくなる。のべ300人以上に手術を行い、8~9割の方が結果に満足しているという。
「一番多い感想は『傷あとを見られても平気になった』『傷あとを見た人のリアクションが変わった』というものです」
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