東京で傷あと治療に特化したクリニックを開く、形成外科医の村松英之さん(50)。自傷の傷あとに悩む人たちのために「戻し植皮」という手術法を取り入れたところ、術後の患者満足度が飛躍的に上がったという。
「はがした皮膚を90度回転して戻す」という手術の効果と、傷あとを人に見せる“葛藤”について聞いた。(全4本の2本目/3本目を読む)
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──村松さんはなぜ、傷あと専門治療の病院をつくろうと思ったのですか。
村松 きっかけのひとつは、勤務医時代に出会った患者さんです。
群馬の総合病院にいたとき「アゴの傷が気になる」という若い女性が来たんです。僕は「手術すれば傷あとは目立たなくなる」と伝え、その女性は手術を受けました。
その半年後、感謝の手紙をもらいました。「今まで前を向いて話せなかった。これから新しい人生を生きていける」と。でもそのあと、僕にとってショックな言葉が続いていました。
「手紙を読んだあと、猛烈な怒りが込みあげてきました」
──何が書いてあったのでしょう。
村松 「この病院を見つけるまで数年かかった」「他の病院の皮膚科や外科で相談しても『その傷あとは治らない』『傷自体は完治しているから気にしないで』と言われ、ずっと悩み続けていた」と書かれていたんです。
読んだあと、猛烈な怒りが込みあげてきました。大きな問題が2つあるからです。まず、他科の医師がこの患者さんに形成外科を紹介しなかったこと。これは、日本では形成外科の認知度が低すぎるからです。
──そういえば「形成外科」と「整形外科」は混同されがちです。
村松 整形外科は「体の運動器の治療や機能回復」が専門で、骨や関節、筋肉などを診ます。一方、形成外科は「見ためをできるだけ正常に再建、修復させる」のが専門で、傷あとや生まれつきの欠損などを診ます。でも、医療現場でも形成外科をよく知らない医師が多く、紹介のルートがちゃんとできていない。そのために人知れず悩んだり、困っている方がたくさんいるんです。
もうひとつ、傷あとを気にするかしないかは、医師が判断することじゃない。ご本人です。他人から見たら些細な傷あとでも、ご本人が気になるなら「大きな悩み」です。その女性にとっては、数年も人とまともに話せないほどの悩みだった。僕はとても心が痛みました。またそのあと海外に留学する機会がありましたが、このように形成外科が知られていないのは日本だけということを知りました。そこで、傷あとに悩む人のための病院をつくることにしたんです。


