形成外科医の村松英之さん(50)は開業7年目。自傷の傷あとに悩む患者をこれまでに1200人以上診てきたという。残った傷あとのために仕事や家庭で生きづらさを抱える人がいる一方「傷あとは私の勲章」という人もいる。患者たちが抱える現実と回復のストーリーを村松さんに聞いた。(全4本の3本目/4本目を読む

世界で唯一の「リストカットの傷あとに特化したクリニック」を開いた村松英之医師 ©文藝春秋 撮影・杉山秀樹

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──自傷の傷あとが残ると、どんなデメリットがあるのでしょう。

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村松 患者さんからは、人から“一線”を引かれてしまう話をよく聞きます。誰かと仲良く打ちとけようとしたり、進学や就職などで社会との関わりを広げるときなどですね。

 働いている人の場合「傷のことを職場で注意された」「嫌な言葉をかけられた」「希望の職種に就けなかった」という話もあります。特に接客業や教育、医療関係など人と関わる仕事、印象が重視される仕事は影響が出やすいです。制服を着る職業も、夏場は半袖になるので難しいと聞きます。

「ママ友に見られたら、子どもが仲間はずれにされるかも」

──プライベートでも傷あとが残る影響はありますか。

村松 結婚や子育てのタイミングで「家族に迷惑をかけてしまう」と悩む方が多いです。

 たとえば「結婚の挨拶のとき、義理の両親に傷あとがバレたらどうしよう」とか「ママ友に見られたら、子どもが仲間はずれにされるかも」「先生に知られたら子どもが嫌な思いをするかも」など。自傷自体は過去の話でも、悩み続けて来院するケースが目立ちます。

 

──村松さんのクリニックを受診した人には、どんな背景があったのですか。

村松 小学生向けの塾講師をしていたAさんは、塾長に腕の傷あとを見られ「気持ちが不安定な人は講師にふさわしくない」と退職を迫られました。彼女はそれをきっかけにうつ状態になってしまいました。

──傷あとが仕事を失う原因になってしまったのですね。

村松 Aさんは子どもの頃に自傷していて、大人になってからはやめていました。ところが、退職を迫られたことで自傷が再発してしまい、来院したんです。その後は訪問看護を受けて徐々に立ち直り、今は別の会社で事務職をしているそうです。