「私は完璧じゃないと見捨てられてしまう」という不安でリストカットに…
──他にどんなケースがありますか。
村松 Bさんは子どもの頃から男手ひとつで育てられました。ところが父親とは折り合いが悪く、家庭はいつもギスギスしており「私は完璧じゃないと見捨てられてしまう」という不安がありました。その後、恋人と父親のそりが合わず、板挟みになったBさんは自傷を始めました。腕を切ったことを恋人が知ると、心配して自分の側にいてくれたのが救いだったそうです。
その後、大人になったBさんは父との関係を修復し、自傷をやめました。そして別の男性と結婚、女の子を出産。傷あとはずっと服で隠していましたが、悩みが徐々に大きくなったのです。
──それは、お子さんのことで?
村松 そうです。娘さんが成長するにつれ、Bさんに傷の理由を尋ねてきたのです。とっさに「転んじゃった」と答えましたが、いずれウソがバレるだろうと思ったそうです。「傷あとは自分が望んでやった、罰のようなもの。でも子どもに心配をかけたくない」と来院し、戻し植皮手術を受けました。
その後、Bさんは半袖を着られるようになりました。「傷はヤケドのあとにしか見えません。私が半袖の服を着ていると、娘も『ママ、かわいい』とほめてくれます」と喜んでいました。
──家庭環境が自傷に影響するケースは多いのでしょうか。
村松 10代までの自傷は、理由の大半が「家庭環境」か「学校・友達関係」です。原因が複雑に絡み合うこともあります。
Cさんは小さい頃から学校の成績がよく、両親の期待を背負って育ちました。それに応えようと努力しましたが、親はテストの成績が悪いと殴るようになりました。Cさんは激しい叱責に耐えたあと自室で腕を切ると、気持ちが整い勉強に集中できたそうです。
──追い詰められてしまったのですね。
村松 Cさんにとって自傷は「いい子」でいるために欠かせないものでした。ところがある日、高校の友人が「それは暴力だよ」と言ってくれたのをきっかけに、自傷のことも打ち明けられたそうです。それ以降、Cさんは傷あとを「自分が頑張ってきた勲章」と思うようになりました。
その後は両親の反対を押し切り、専門学校に進みました。Cさんは来院したものの、結局手術はしていません。「傷あとがあるから今の私がいる。できればずっと一緒に生きていきたい」と話していました。

