──傷あとを治さない患者さんもいるのですね。
村松 僕は傷あとを「絶対に治療すべき」とは思っていません。目立たなくしたい患者さんには、戻し植皮などの治療を提案します。でも明らかに目立っても、ご本人がそれを気にせず生活に支障がなければ、そのままでいいと思います。
というのは、傷あとは「それまで自分が生きてきた経験」そのものだからです。見慣れた体の一部として安心感を持てたり、大切な思い出の場合もあります。ですから治療に興味がある方は、まず「傷あとは自分にとってどんな存在か」を考えてみるといいと思います。
──治療した患者さんの「その後」で、印象に残っているケースはありますか。
村松 街を歩いていたら突然「私、先生の戻し植皮手術を受けたんです」と声をかけられたんです。その女性はベビーカーに子どもを乗せていて「術後は傷あとがとても綺麗になりました。今は結婚して子どもも生まれました。手術をして本当によかったです」と。こういう話は医者冥利につきますね。
──それはうれしい知らせですね。
村松 あとは、僕が3年前に立ち上げた社団法人「日本自傷リストカット支援協会」の運営を、戻し植皮手術を受けた2人の患者さんが手伝ってくれています。
その方々は、自傷行為と傷あとの2つを乗り越え、今は自傷に悩む方やご家族の支えになろうとしている。その強さに感動しますね。
「どうしてもやめられない方には『やめる、やめない』の2択ではなく…」
──村松さんは「自傷をやめたいけれどやめられない」という人には、どんな声をかけますか。
村松 どうしてもやめられない方には「やめる、やめない」の2択ではなく「自傷とほどほどにつきあってみては」と伝えると思います。
──「自傷をやめよう」とは言わない?
村松 以前は僕も「やめよう」と言っていたんです。でも、言われてやめられるものなら、皆さんすぐにやめています。ムリにやめさせようとすると、だいたい2つのことが起きます。それは〈隠れてやる〉か〈離れる〉です。

