「自傷する人は“かまってちゃん”だろうと思っていました」

 世界で唯一の“リストカットの傷あと特化クリニック”を開いた形成外科医の村松英之さん(50)は、研修医時代にそんな「偏見」を抱えていたという。

 しかしその考えは、開業後に180度変わった。今、日本全国から彼の元を訪れる女性患者たちの意外な姿とは。(全4本の1本目/2本目を読む

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世界で唯一の“リストカットの傷あと特化クリニック”を開いた村松英之医師 ©文藝春秋 撮影・杉山秀樹

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──村松さんのクリニックは「リストカットの傷あとに特化した形成外科」をうたっていますね。全国でも珍しいのでは。

村松 2017年に開業以来、1200人以上の自傷患者さんを診てきました。でも昔は、自傷する人への苦手意識があったんです。

 僕が医者になったのは2000年ですが、最初は総合病院の研修医だったので、夜間は入院患者さんや救急外来に対応する当直勤務がありました。夜なので自傷の患者さんも多かったのですが、交通事故など他の理由で来院する人たちとは印象が違ったんですよね。

「『自傷する人は“かまってちゃん”だろう』と思っていました」

──どんなところが違ったのでしょう。

村松 夜間の救急外来に来るほどなので、たいていは腕を深く切っているんですよ。いわゆる「リストカット」です。気づいた家族があわてて連れてきたり、救急車で運ばれてくるんですが、当のご本人はなぜかスッキリとした表情をしていることが多くて。

 普通、ケガをした患者さんはショックを受けたり泣いたりするのに、僕が見た自傷患者さんにはそういう様子がまったくない人もいました。それが印象的で「なぜ他人事のような顔をしているんだろう」と思ったんです。

 

──「自分のせいで大ごとになっているのに」と?

村松 正直に言えば、そういう気持ちもあったと思います。当時は医療者側もリストカットへの理解が浅かったし、先輩医師の中には「自傷をやめさせるには、治療時に痛みや恐怖感を与えるべき」と言う人もいました。たとえば「麻酔なしで傷口を縫うほうがいい」みたいな。

──今なら大問題になりそうですが。

村松 そうですね。ただ、自分の周りは形成外科の医師ばかりで、それぐらい知識に乏しかったんです。僕自身も、深い傷を負った患者さんに入院をすすめたら「家に帰せ」と抵抗されたり、医師や看護師への高圧的な態度を目の当たりにしたので「自傷する人は“かまってちゃん”だろう」と思っていました。