──かまってちゃん。
村松 「自傷は、本人の辛さをアピールするための行為だ」という理屈をつけると、僕の中で納得しやすかったんです。自傷すると周囲は驚いて優しくなる。だから「自分に振り向いてほしい、かまってちゃんではないか」と思っていました。
でも2017年にこのクリニックを開いてから、その印象が180度変わったんです。
開院から半年ほど経つと、リストカットあとに悩む患者さんが増えてきた
──どんなことがあったのですか。
村松 開院当初はケガや事故、ヤケドの傷あとに悩む人を診るつもりでした。でも半年くらい経つと、リストカットの傷あとに悩む患者さんが増えてきて。「きずときずあとのクリニック」という名前なので、ネット検索をしてこの病院名が出てきたんでしょうね。
それで自傷患者さんに触れる機会が増えたんですが、何人も診察しているときに違和感を持ったんです。それは、みんな身なりがきちんとしていて、真面目だし礼儀正しいんですよ。研修医時代に自分が抱いていたイメージとはまったく違いました。もしかして自分は誤解していたのではと思い、そこから自傷について勉強を始めました。一番驚いたのは「自傷行為にはメリットがある」ということです。
──自分を傷つけることにメリットがある?
村松 これは自傷行為の本質の話ですが、自傷にはストレスを和らげる効果があります。
患者さんはよく「頭の中が嵐になる」と言いますが、死にたいくらい辛い感情、怒り、悲しみ、絶望に襲われて、頭の中がワーッと混乱状態になってしまう。そのときリストカットなどで体を傷つけると、βエンドルフィンやエンケファリンなどの神経伝達物質が出て、スッと楽になるんです。
これは痛みや辛さから自分を守る、いわゆる脳内麻薬です。マラソンのランナーズハイや妊婦さんの出産時にも同じような現象が起きます。
──では、自傷することで辛さから逃げられる?
村松 そうです。心が辛さに耐え切れないとき、自分の体を傷つけると脳内麻薬が出る。そうすることで「死にたいほどの現実」を一時的に生き延びられるんです。これは精神科医の松本俊彦先生から学びました。
──他に、自傷による作用はありますか。
村松 自傷後は表情が穏やかになったりします。脳内麻薬の効果で、それまで険しくしんどい顔をしていた人が、微笑むような穏やかな表情になることがあるんです。

