「自傷患者さんの中には、何十年も長袖で暮らしている方もいますが…」

──傷あとをゼロにはできないのでしょうか。

村松 はがした皮膚を戻す前に、皮膚に残った凸凹を平らにしたり、大きな傷あとは切って縫合します。でも、傷あと自体はどうしても残るので「傷つく前の肌には戻らない」「治療期間が年単位になる」という2点は、患者さんに伝えています。

──戻し植皮手術を受けた人は、術後はどう感じているのですか。

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村松 のべ300人以上に手術をしましたが、8~9割の方が結果に満足しているようです。一番多い感想は「傷あとを見られても平気になった」「傷あとを見た人のリアクションが変わった」というものです。皆さん、傷あとを他人に見られる回数が増えるにつれて、手術の効果を感じるようです。

 また、自傷患者さんは肌を出すことに高いハードルを感じていて、夏でも長袖を着る方が多いです。中には何十年も長袖で暮らしている方もいますが「術後は半袖を着られるようになった」という方も多いです。

──ずっと隠していたものを見せるのは、勇気がいりそうですが。

村松 そうですね。中には「傷あとが完全にキレイになったら出そう」と考える方もいます。でも、そう思っているうちはなかなか腕を出せないです。僕は、ちょっとずつでもいいので、怖くても一度出してみることが大事だと思います。腕を出すのにも慣らし期間が必要なんですよ。

──どうやって慣らしていくのでしょう。

村松 まずは、自分が腕を出した状態に慣れることから始めます。たとえば、自分の部屋で半袖を着てみる。次は、5ミリでも1センチでもいいので、長袖から少し腕を出して、夜の公園やコンビニなどに行ってみるんです。

 そして人とすれ違ったり店員さんとレジでやりとりするとき、相手の視線を観察してほしいんです。ほとんどの人は傷あとを気にしません。そうやって「周りは意外と、私の傷あとを気にしていないんだ」と思える場所を広げていきます。

 

──そのゴールはどこなのでしょう?

村松 働いている方ならば職場がゴールになりますが、やはりハードルは高いですよね。なので、ムリに職場で出さなくてもいいんです。それ以外の生活シーンで傷あとを出せるようになるだけでも、その方の人生は大きく変わります。

 次は、実際に自傷の傷あとで悩んでいた患者さんのケースを紹介します。

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