──自傷の傷あと治療に訪れるのはどんな患者さんが多いのですか。
村松 患者さんは9割が女性で、年代は30~40代のお母さん世代が中心です。というのは、うちは「傷あと」のクリニックなので、今は自傷をやめた方が多いんです。たとえば「10代の頃にリストカットしていた。その後は落ち着いて暮らしているけど、傷あとのことで何十年も悩んでいる」などのお話を聞きますね。
「自傷に限らず、一度できた傷あとは、基本的に一生消えませんが…」
──自傷の傷あとはずっと消えないのですか。
村松 自傷に限らず、一度できた「傷あと」は、基本的に一生消えません。
皮膚は一番上に「表皮」、その下に「真皮」、さらに「皮下組織」があります。キレイに治るのは、深さ0.1~0.3mmほどの表皮の傷。真皮まで達した傷は必ず傷あとになります。リストカットは深さ1.5mmくらいの傷が多いので、何もしなければずっと残ります。
──村松さんはリストカットの傷あと治療として「戻し植皮(しょくひ)」手術に積極的に取り組んでいるそうですね。
村松 最初はレーザーや切除などで対応していたのですが、あまりいい結果が出なくて。でもこの手術を始めたら、患者さんに「リスカの傷あとだとわからなくなった」「人生が変わった」と喜ばれるようになったんです。
──どんな手術なのでしょう。
村松 ざっくり言うと、ご本人の傷あと部分の皮膚を四角い形ではがし、90度回転させて戻します。
──元の皮を同じ場所に回転させて戻すだけ、ということですか?
村松 そうなんです。「横向き」の傷を「縦向き」に変えるだけで、他人から「リストカットのあとだ」と思われにくくなる。つまり、戻し植皮は傷あとの“印象”を変える手術なんです。ご本人の同じ場所の皮膚なので、肌色がほぼ同じなのもポイントです。
──たしかに、横向きの傷はリストカットを連想しそうです。
村松 そうですよね。リストカットの傷あとは、場合によっては偏見につながります。でも傷あとが縦方向であれば、多くの人には「ヤケドか、転んだりしてできた普通のケガ」に見えます。転んでできたケガに偏見を持つ人は、ほとんどいませんよね。


