しかし3年間の保護観察期間が過ぎると、サトルくんの母親とAのやりとりは途絶えた。
「手紙の最後はAが高校1年のときです。『はぁ』とため息が出ます。Aは事件の調査にも応じていませんし、Aが加害者と認定された報告書も『母親と相談して報告書を読まないことにしました』と言います。最後まで母親を頼っているのを見て、更生に失敗しているのでは、と思ってしまいます。Aを見ていると、『少年法が加害少年を守ってくれる、何を言っても大丈夫』と思っているような気がします」
サトルくんの母親は、Aの更生への取り組みに納得しておらず、今でも疑っているという。
「12回受けるはずだった性加害者の更生プログラムも3回ほどしか受けていないと聞きました。心理検査で衝動性の値が“平均値”だったということで、『治療は必要ない』と判断して終えたそうです。
性教育も受けてほしいと何度も伝え、性的同意についての本も勧めました。ただAは同意の“概念”を知識として学んでいても、実際の意味を理解できているのかは不安が残ります。更生プログラムや性教育に対する主体性を感じませんでしたし、怖くて断れないことや上下関係があるなどの場面があることを理解できているのか……。ただAも、ある意味で被害者かもしれないとは思うんです。本当ならAの親がちゃんと自分の子どもをちゃんと見なければいけないんです」
「毎日思い出します。許せません。忘れられません」
サトルくんの母親にとっても、Aと手紙で交流をすることは大きな負担だった。それでもAに関わることを選んだ母親は、息子への性加害を許せたのだろうか。
「毎日思い出します。許せません。忘れられません。思い出すと、人生を捨てたくなって、自分がどうしようもなくなってしまいます。危なくなったら、精神薬を飲んで寝るしかない、という生活が今でも続いています」
サトルくんは今年度から、近所の中学校に進学している。しかしその学校は、事件当時にAが通っていた学校でもある。
「サトルは被害を受けたときのAと同じ年齢になり、同じ通学路を通って学校へ通う時に事件を思い出すことがあるようです。近所の別の中学校へ進むことも考えたのですが、数年前にいじめや自殺があった学校でそれも不安でした。いろいろ悩んで、最終的に、小学校の同級生たちと同じ中学校へ進むことにしました。Aの記憶に苦しまないといいのですが……」
サトルくんの4歳上のAはすでに中学を卒業する年齢になっており、地域からも引っ越している。それでも、今もサトルくんは通学路や中学校、公園などでフラッシュバックを起こすことがあるという。学校や部活、スポーツの男子集団の空気などもトリガーになる。事件が残した傷は深く、まだ癒えていない。
