歴代の首相はどんな状況が存立危機事態にあたるかの線引きをあえてあいまいにしてきた。侵略を考える相手に手の内を明かすことにつながるからだ。首相経験者の一人は国会で「言っていいわけがない」と断じたとある。「政府は普段から考えておかないといけないが、表で言ってよいことではない」とも。

なぜ答弁で「戦艦」という用語を使ったのか

 さらに注目は次だ。首相は答弁で「戦艦」という用語を使い発言した。しかし防衛省が現代戦の文脈で「戦艦」といった用語を使うことはないという。首相の発言は防衛省が用意した答弁ではなく自身の言葉だったことをうかがわせる、と。

 この記事を読んで思い出したのは話題になった「午前3時の勉強会」だ。高市首相が国会に備えて7日の午前3時から勉強会を始めたというあれ。「存立危機事態」答弁はこの日の国会で出たので、先ほどの記事と読み合わせると、自身の言葉で答弁に臨もうと勉強会を早くから開いたのだろう。

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 しかし日経の記事で専門家は「言葉を精査してシグナルを送る覚悟がないと抑止力を使いこなせない」と警鐘を鳴らしている。

 あの日の答弁の背景を考えてみると、高市首相は支持者に対してアピールしたのだろうか? 先日の中国との首脳会談で高市首相は石破路線を踏襲していた。「でも安心して、私は変わっていない」というメッセージをコアな支持者に対して送ったのか。一方で改めて岡田氏との議論を見直すと、岡田氏に問われてつい言ってしまったようにも見える。

 さてどっちなんだろう? 現場で答弁を聞いていた記者に尋ねてみたら、つい飛び出した感じを受けたという。高市首相は自分の言葉にこだわりすぎて逆に素人感が出た、という声もあったという。

 日刊スポーツのコラム「政界地獄耳」は高市答弁に対し、

「中国を仮想敵国として首相が明言したことに変わりはない。何時に起きて勉強しても自分の得意分野で足をすくわれる。寝不足が対中外交を危うくさせ、無駄な失点を呼んだか」

 かなり厳しい地獄耳師匠。