問題を起こしたクマの“共通点”

「二つの事故にはそれぞれの背景と原因があるので、一概に論じることはできませんが、共通点がひとつあります」

 そう語るのは、「南知床・ヒグマ情報センター」の藤本靖氏である。

「それはいずれの事故にも“予兆”があったということ。具体的には、事故前から、問題の個体が現場周辺に何度も出没している点が共通しています」(同前)

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 北上市の事故では事故の数日前からクマが倉庫に侵入し、米などを食害する被害が複数回起きていた。福島町のケースでも事故前からゴミ捨て場がクマに荒らされる被害が続いていた。こうした事実が意味するのは、問題を起こしたクマは「人間を恐れていなかった」ということである。

「もっといえば、人間を下に見ているといってもいい。近年、クマの生息数の増加と山のエサ不足を背景に、人里近くで生活する『アーバンベア』の存在が指摘されていますが、彼らは人間を間近で観察した結果、人間に慣れてしまう。さらに農作物や生ゴミなどを通じて人間の食べ物の味を覚えてしまったクマはそれに執着するようになる。こうなると、いつ人間を襲ってもおかしくはない」(同前)

市街地にクマ出没→「緊急銃猟」が導入

 クマは学習能力の非常に高い動物である。人間とクマの生活圏が近くなり、“人慣れグマ”が増えていけば、市街地での不慮の事故の可能性もそれだけ増える。

 そうした状況の中、市街地でのクマ出没に備えて2025年9月1日から導入されたのが「緊急銃猟」という制度である。というのも、従来の鳥獣保護管理法下においては、原則として市街地での発砲は禁じられていた。そのためクマが市街地に出没した際は、警察官が〈人命にかかわる危険が差し迫った状況〉と判断した場合のみ、ハンターに発砲許可を出すことで対応するしかなかった(警察官職務執行法第4条第1項)。

「ただクマ相手の現場では、瞬時の判断が求められるので、そのタイムラグが大きい。経験上、クマを一日追いかけても、撃てるチャンスがあるのは、ほんの4、5秒しかないからです」(同前)