ハンターに“丸投げ”問題
そこで鳥獣保護管理法を改正する形で導入されたのが「緊急銃猟」である。これにより市街地においても安全面で一定の条件を満たせば、市町村長の判断でハンターに銃による駆除を委託できるようになった。だが、現場のハンターの表情は複雑だ。
「自治体が判断といっても、現実的にはハンターに“丸投げ”するしかない。それで、もし何か事故が起こったら、その責任は誰が負うのか。警職法を適用した場合、ハンターは“みなし警察官”となるので免責特権がありますが、鳥獣保護法での対応では、単なる“みなし公務員”です。たとえ刑法上の責任は問われなかったとしても、行政処分を受けるリスクは残る。明確な免責特権がないことが一番の問題だと思います」(北海道猟友会所属のハンター)
二つの法律が絡んでいる複雑さ
本来、猟友会は狩猟を趣味とする同好の士の集まりであって、有害鳥獣の駆除に協力する義務はない。
「狩猟と有害駆除とでは目的が違うのにどちらも銃を使うというだけで、有害駆除がハンターに押し付けられてきた面はあると思います」(同前)
前出の藤本氏は、「そもそもの問題は“銃で有害鳥獣を駆除する”という行為に二つの法律が絡んでいる点にあると思います」と指摘する。すなわち環境省が所管する鳥獣保護管理法と、警察庁が所管する銃刀法である。その意味では、クマの市街地への出没は、その二つの法律の狭間で起きている問題ともいえる。
「今後、市街地でのクマによる人身事故は増えていくでしょう。それに対して鳥獣保護法の改正(緊急銃猟)という“継ぎ接ぎ”の対応だけで本当にいいのか。私は銃刀法の改正も視野に入れつつ、有害駆除という目的を明確にした新たな法体系を整えるべきだと思います」(同前)
国民の生命と財産を守ることは、国家の使命である。これ以上、駆除の現場に責任を押し付けることは許されない。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン2026年の論点100』に掲載されています。
