赤字が続いているのに事業をやめられない――実は多くの会社が陥りがちな“危険な状態”だ。取引先や社員を巻き込んでいるため、「撤退」を決断するのは想像以上に難しい。失敗を認めれば評価が下がるという恐れもある。しかし先送りすれば損失は膨らむだけだ。経営の最前線に立ってきたサイバーエージェント社長・藤田晋氏は、この難題にどう向き合ってきたのか。

 愛馬フォーエバーヤングのBCクラシック勝利に続き、FC町田ゼルビアが天皇杯を制覇。勝負強さが炸裂する藤田氏の新刊『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む

事業撤退すべきタイミングの見極め方とは? ©文藝春秋

◆◆◆

ADVERTISEMENT

「事業の撤退」が難しいワケ

 しかし、その「撤退」が非常に難しい。

 新たに事業を始めた際には、取引先や金融機関、そのために採用した人など多くの人を巻き込んでしまっているからやめると言い出すのは至難の業だ。中には失敗を認めることは社内の評価を下げることに繋がり、キャリアの終わりを意味するほどの人もいるだろう。時には関係した人の人生まで左右することだってある。

 だから、井川さんがカジノでハマったギャンブルのように、倍プッシュ倍プッシュとつぎ込んで、一発当たれば今までの負けが全部チャラにできるという妄想に駆られ、気づいた頃には破産まで行き着いてしまう結末もありえる。

 間違えていた、失敗したことが分かった時、負けを認めて損失を確定することはとても価値のあることだ。その判断を先送りしている人は駄目だが、厄介なことに外から見て分かりにくい。でもそれが分かりやすく派手な飲み食いよりも重罪なのは、冷静に考えてみれば明らかだろう。