ダメ人間への讃歌

──古泉さんの作品にはつねにダメな人間が登場しますが、その生きざまを否定せず、ユーモアを交えつつ前向きに描いているのが特徴かと思います。ご自身の作品をどのように分析されていますか?

古泉 『死んだ目をした少年』と『ジンバルロック』と『サマーブレイカー』(電子版のみ)は、僕の自伝的なマンガです。それぞれ中学、高校、予備校時代の僕自身が投影されたものですね。その系譜とは別に、『転校生 オレのあそこがあいつのアレで』や『ライフ・イズ・デッド』のような、ファンタジー要素のある作品があります。あとは、『ワイルド・ナイツ』や『チェリーボーイズ』など、国森というダメ男が主人公のシリーズもあります。

── 『ワイルド・ナイツ』では、古泉さんご自身が婚約解消&妊娠で訴えられたときの経験も入れられていると聞きました。

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 古泉  若い頃につきあっていた女性と結婚しようと思ったんですが、婚約を解消して故郷に帰ってしまったんです。ところがその後、彼女が妊娠していることが判明して、訴えられたんです。僕の方でも言い分は山ほどあったんですが、そのうち子どもが生まれて……。

 結局、慰謝料と養育費を払うことになったんです。これまでで総額1000万円以上払い続けています。数年後に子どもと会えたんですが、すごく可愛くて、ムチャクチャ感動しました。そのときの経験がマンガに反映されています。

──そんな経験をされたにもかかわらず、いまは里親制度を利用されて、子どもを育てられているんですよね。

古泉  はい。その後、いまの妻と結婚したんですが、子宝に恵まれず、特別養子縁組制度を利用して、男と女ふたりの子どもの親になりました。『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』は、その経緯を書いた体験記です。

──『ゲットバック』の主人公である竹夫と長谷川は、他の古泉作品にも登場するスターシステム的なキャラクターですよね。

古泉 使い回しています(笑)。竹夫は基本、引きこもりのニートなんです。長谷川は脇役だったんですけど、今回は初めて2人そろって主役になりました。

──長谷川というキャラクターには、ご自身を投影されている部分があるんですか?

古泉 まあ、全員に投影されてますけど、長谷川は一番性格のねじれたやつですね(笑)。竹夫も決して性格は良くないですけど、まだ善良なところがある。とにかく、自己中心的でアグレッシブなのが長谷川です。

アグレッシブなは長谷川

“プロ童貞”が登場する最新作

──『青春☆金属バット』や『ライフ・イズ・デッド』など古泉さんのマンガは映画化されることが多いですね。

古泉 ありがたいことです。なかでも城定秀夫監督の『渚のマーメイド』は僕自身が脚本と助監督も務めたので、特に思い入れが強いですね。

──ご自身も映画がお好きだと聞きました。

古泉 はい、高校生の頃から映画館に通うようになりました。今もよく観ます。月に20本ぐらいですかね。

──すごい本数ですね!

古泉 いやいや、テレビを全然見ないので。2時間テレビを見る時間を映画に当ててる感じです。今朝も家でDVDを観てきましたし、昨日も映画館に行きましたよ。

──そうしたインプットが、創作のアイディアにつながる事もあるのでしょうか。

古泉 そうですね。「こういう場面が描きたいな」というのを考えて、それをネタ出し会で弟子の髙橋君と話して、キャラや状況を決めていくことが多いです。最近だと、ドストエフスキーの『賭博者』を読んで、これを現代日本の競馬やパチンコに置き換えてマンガにしたいな、と思いました。文豪と言われてますが、ドストエフスキーって結構イカれてて、面白い。『賭博者』もクレイジーでふざけた話なんですよ。ぜひいつかコミカライズを実現したいですね。

──現在LINEマンガで連載中の『童貞王~セックスはもう飽きた~』(吉泉知彦名義)は、齢60歳を過ぎても童貞を守っている“プロ童貞”のデザイナー、山口明が主人公です。ここでも竹夫と長谷川が登場するそうですね。

古泉 そうです。計らずも『ゲットバック』のサイドストーリーみたいになってるんですよ。

──どういうことでしょう?

古泉 『童貞王』には、漫画家としてうだつの上がらない竹夫が出てくるんですけど、これは『ゲットバック』でテロを起こさなかった竹夫が35歳になってもまだ童貞で、東京で暮らしている、という話なんです。

──まるでパラレルワールドのような感じですね。

古泉 はい。長谷川も出てきて、竹夫に色々とアドバイスしたりします。山口の童貞を狙っているSMの女王が出てきて、その女王に竹夫が恋しているとか(笑)。こちらもまだまだ続くので、楽しみにしていただければと思います。

『ルックバック』では終盤マルチバースの展開がありますが、『童貞王』が『ゲットバック』のマルチバース的な存在です。もし竹夫が凶行に走らず、上京して売れない漫画家として活動していたらという目線でぜひお読みください!

 

こいずみ・ともひろ

1969年生まれ、新潟県出身。漫画家。専修大学文学部心理学科卒業。93年、「ヤングマガジン」ちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。主な著書に『ジンバルロック』『ワイルド・ナイツ』『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』など多数。映像化された作品も多く、『青春☆金属バット』(熊切和嘉監督)、『ライフ・イズ・デッド』(菱沼康介監督)、『渚のマーメイド』(原題『ミルフィユ』・城定秀夫監督)、『死んだ目をした少年』(加納隼監督)、『チェリーボーイズ』(西海謙一郎監督)が映画化された。

ゲットバック

古泉 智浩

文藝春秋

2025年12月16日 発売

最初から記事を読む 【新連載】「俺がネームを描いてやる!」底辺高校のボンクラ男子2人が手を組み、目指せ《マンガ家デビュー》