「プリンスの心の中に神がいる」
プリンスはインタビューなどで「Gがない」のこたえを明かしていません。すべてを受け手に委ね、それぞれの解釈を許したのです。
同アルバムを擁したLovesexyツアーでは、《The Cross》が『Lovesexy』収録曲の合間に必ず演奏され、「神」の存在を暗に示しています。またプリンスのシンボルマークの中にも十字架が入っています。これも「プリンスの心の中に神がいる」の記号化と言えるでしょう。
Gの不在をGUN(銃)の不在と読むならば、彼がやがて拳銃型のマイクを用いるようになったこととも呼応します。「銃ではなく、音楽を武器に戦っていく」という彼の強い意志が、ステージギアにも反映されます。
G-SpotのGは、Lovesexyは「愛と性を切り離さない」概念の提示であること。さらにLovesexyについて「副作用はない」「これはトリップである」と楽曲で言及しているところからも、「性愛の肯定」としてのGが見えてきます。
プリンスは、Gというたった一文字の不在を通して、人間の「生」にまつわる「?」を差し出しました。
《Alphabet St.》にはこんなメッセージがあります。“Put the right letters together and make a better day”(正しい文字を組み合わせて、より良い日をつくろう)
プリンスがアルファベット・ストリートを下っていくとき、彼はひとりの女性と出会います。そしてその身体を、下へ、さらに下へと辿っていく――という、SEXYな描写。
天国からの神の愛を受け取り、神のメッセージを正しい言葉(アルファベット)でLOVEと共に地上に伝えていく、プリンスのゴスペル宣言。
LOVEであり、SEXYである。LOVESEXY。《Alphabet St.》は、まさに『Lovesexy』のコンセプトを具現化した曲です。そしてLOVESEXYで彼が獲得した精神性は、その後の楽曲や表現においても、形を変えながら息づいていくことになります。
『Lovesexy』は、光と闇、肉体と精神、性と愛、生と死、懺悔と赦し、終焉と再生、快楽と祈り――そのすべてを受け入れ、超越し、再統合する音楽です。そこには、プリンスの「肯定する力」が宿っています。痛みも矛盾も抱えたまま、それでも前に進もうとする魂に寄り添う、福音の書として。