困ったA子さんは、私の法律事務所に相談にいらっしゃいました。
実家に帰れるのに帰らない理由
詳しく話を聞くと、A子さんには実家があり、そこには母親が一人で住んでいました。母も兄弟も「離婚するなら戻ってきてもいい」と言ってくれているそうです。それなら実家に住むこともできるのではと提案したところ、A子さんは戸惑った様子でこう言いました。
「家を出てしまったら、この家が自分のものじゃなくなりそうで……」
つまり、家を出たら財産分与の対象から外されてしまうのではないかという不安があったのです。
しかし、「誰が家に住んでいるか」は、財産分与の権利とは無関係です。判断基準になるのは名義が誰のものか、住宅ローンの残債があるか、頭金は誰が払ったかなどで、住んでいるかどうかは本来問題になりません。
「調停で家をもらう交渉はしますが、このままでは話し合い自体が進まないので、とりあえず家を出ましょう」と説明したところ、A子さんは実家に移る決意を固めて、とりあえず家を出ることになりました。
別居で話が進み始めた
別居をすると、調停での夫の態度が明らかに変わりました。これまで感情的に話していた夫が徐々に冷静になり、「妻が実家に帰ったことで、本当に離婚する気があるとわかった」「家に固執していたわけではなく、自分が出ていったら、自分の非を認めたことになると思っていた」と本音を漏らしました。
夫は妻が本気で離婚を考えているとは思ってなかった上に、「家を出る=負け」と思って意地を張っていたのです。
その後はスムーズに話が進みました。夫は「離婚をして一人暮らしをするなら、この家は大きすぎるので、仕事場の近くに引っ越したい」と申し出ました。また「子どものために家は売らずに、A子さんが住んで残してあげてほしい」という希望も口にしました。
最終的には、預金や株といった金融資産は夫が持つ代わりに、家はA子さんがもらうことになりました。