離婚の話し合いはどうすればスムーズに進むのか。離婚や男女問題に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「家が欲しいからと言って頑なに家を出ずに離婚の話し合いをする人がいる。しかし、家に住み続けている側が家を得るとは限らない。むしろ別居することで話がうまく進むことが多い」という――。

※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。

写真=iStock.com/Moyo Studio ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Moyo Studio

「どちらが家を出るか」で膠着状態

A子さん(55歳・パート)は、同い年の夫と二人暮らしをしていました。

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10年ほど前から不仲が続いていましたが、5年前に長男が結婚して家を出てからは、けんかの頻度が格段に増え、家庭の空気はますます険悪になりました。

「この人と老後を一緒に過ごすのは無理」と感じたA子さんは、夫に離婚を切り出しました。夫も離婚しかないと言って、条件の話をするようになりました。

離婚することで考えは一致していますが、問題は家のことです。現在住んでいる戸建て住宅は、住宅ローンが残っていて、夫が退職金で完済予定の持ち家です。A子さんは、離婚後もこの家に住み続けたいという希望があって、夫に家を出て行ってもらいたいと思っていました。しかし夫も家を出て行く気はなく、どちらも譲らない状態が続いていました。

同居しながらの離婚調停は夫婦げんかの延長に

「このまま話し合ってもらちが明かない」と思ったA子さんは、同居をしたまま離婚調停を申し立てました。

「家だとけんかになるけれど、第三者が入れば冷静に条件の話し合いができるだろう」と期待していたA子さんでしたが、実際にはうまくいきませんでした。

夫婦それぞれが「相手が出ていけばいい」と主張するばかりで、毎回同じやりとりが繰り返され、調停でも話は進みません。

さらに、家に帰れば顔を合わせてしまうので、調停の内容をめぐって家で口論になることも少なくありませんでした。

結局、調停でも「相手は調停でああ言ったのに家でこう言った」と告げ口するだけで、単なる夫婦げんかの延長になってしまい、調停委員からは「やはり同居のままでは調停を続けるのは難しい。近々不成立にする。離婚したければ先に別居してほしい」と指摘されるようになりました。