岸井 お弁当をどう取り合うかとか、トイレットペーパーについてケンカになってしまうシーンをどう撮るかなど、リハーサルを重ねたことで安心して現場に入れました。お互いに向き合って文句を言うのではなく、背を向けながらセリフを言ったら、相手への積み重なった不満が感じられるのではないか、なども現場で確認しながらできたのはありがたかったです。

──岸井さんと宮沢さんの15年間がとてもリアルでした。22歳からの15年間を演技と演出で表現するのは難しかったのでは。

©2025『佐藤さんと佐藤さん』 製作委員会

天野 正直、30歳を過ぎている岸井さんと宮沢さんに、22歳の大学生をどうリアリティをもって演じてもらうのか、という不安は少しありました。それで、撮影に入る前に、岸井さんに「大学生のシーン、どうしましょう」と相談したんですよね。そうしたら、岸井さんが「明るく元気にやれば大丈夫」とおっしゃってくださったので、お任せしたのですが、いざ本番になったら、カメラの前に大学生の佇まいの岸井さんと宮沢さんが現れて。私の心配って何だったの、と思いました(笑)。

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岸井 「大学生の佇まい」とおっしゃっていただき、嬉しいです。私も氷魚さんも、かつて22歳だったことはあるので、あの年齢の時しか出せない若い空気みたいなものはあるな、と思ってやらせていただきました。

 もちろん、衣装さん、メイクさんの力も大きいですし、監督もカメラや撮り方をいろいろ変えてくださいましたよね。

©2025『佐藤さんと佐藤さん』 製作委員会

「嘘じゃない」夫婦の悩みや問題を描いた

天野 はい。年齢の変化もさることながら、恋人同士だったふたりが、家族になり、やがてすれ違っていく流れは、映像のルックやカメラワークの変化でも表現しました。カメラマンと相談し、子どもが生まれるまでは16ミリフィルム、生まれてからはデジタルで撮影したり、使用するレンズも変化をつけたりして、ふたりの距離感も映像で表現したことで、結果として、月日を体感してもらえる作品になったのではないかと思います。