岸井 ひとりの人間のいろんな年代を演じ分けないといけないので、撮影自体は結構ハードでしたが、すごくいい映画ができたと思います。

 関わるスタッフの方や、今日みたいにインタビューしてくださる方が、結構自分のことを話してくださることが多いというのも、本作の特徴だと思います。きっと何年か後に観ても、夫婦や家族の悩みってあまり変わらないと思うので、そういう時代に飲み込まれない映画を天野監督と一緒に作れたことが、純粋に嬉しいです。

天野 「うちもそうです」「こういう人いる」と、自分事につなげて話してくださる方が多いのは、それだけリアルに撮れたのかなと思います。大きな事件も、派手なアクションもありませんが、「嘘じゃない」夫婦の悩みや問題を描いたことで、いろんな方の心に留まる映画ができたのではと思っています。

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岸井 語りたくなりますよね、誰かに。

岸井ゆきのさん ©石川啓次(文藝春秋)

ワンオペ育児の孤独から生まれた映画

──『佐藤さんと佐藤さん』は、たまたま同じ名字同士が結婚する話ですが、ご自分の名前で活躍されているおふたりは、苗字にどのような想いをもっていますか。

天野 私はパートナーが外国籍なので、結婚しても戸籍が「天野」のままだったんです。もし苗字が変わることになっていたら、自分を見失っていたかもしれません。それくらい、私にとっては「天野」という苗字が自分のアイデンティティになっています。

岸井 えっ、そうなんですか! ミドルネームがあるということでもなくて?

天野 つけたければつけられるのかもしれませんが、私は「天野千尋」でいることを選びました。

 そもそも、この映画は、結婚・出産後のワンオペ育児のさなかに感じた、社会から切り離されたような孤独から生まれたんです。家事と育児だけの毎日で、外に出ることもほとんどなくて。気づいたら、自分のアイデンティティが揺らいでいたことから、企画を考え始めました。

 岸井さんも、本名で活動されていますよね。

岸井ゆきのさん ©石川啓次(文藝春秋)