名前が遠くに行ってしまうような感覚

岸井 はい。でも、私は新しい名前がほしいんです。「岸井ゆきの」は本名ですが、自分の名前なのに、自分のものではないような、自分の名前が遠くに行っているような感覚があるので、アイデンティティとして新しい名前がほしいです。

天野 「名前が遠くに行ってしまう」という感覚、岸井さんからお聞きして、ハッとさせられました。日本では欧米に比べて苗字で呼ばれることが多いせいか、苗字が精神的支えやアイデンティティにすごく影響しますよね。

岸井 地方に行った時に、知らない町のドラッグストアでいきなり自分の名前を見つけたりすると、自分の名前なのに知らない文字が並んでいるように思えるんです。もっと寄り添える名前が欲しいなと思うのは、もしかしたらタモツの感情に近いのかもしれません。

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©2025『佐藤さんと佐藤さん』 製作委員会

天野 アイデンティティの居場所の問題ですよね。タモツは苗字こそ変わっていませんが、司法試験には落ち続け、田舎の親の期待にも応えられず、アイデンティティが揺らぐ日々を過ごしていると思います。一方、サチは苗字も変わっていないし、社会的にも就職して、弁護士に合格して、子どもを産んで、と挫折を知らずに生きてきた。だから、アイデンティティが揺らぐ人の気持ちはよく理解できないのだと思います。

 そういう面でも、岸井さんが“タモツ側”だとおっしゃるのは、よくわかります。ただ、私は撮影に入る前は、岸井さんはサチみたいな方なのだと勝手に思っていたのですが、サチとは違うんだということがわかって、今度は“そっち側”の岸井さんのよさも出せるような映画を撮りたくなっています。

岸井 ぜひお願いします。楽しみにしています。

丸山 晃=スタイリング
茂木美鈴=ヘアメイク

衣装協力:
ジャンプスーツ:ジョルジオ アルマーニ、ピアス・リング:アーカー、その他:スタイリスト私物

©2025『佐藤さんと佐藤さん』 製作委員会

『佐藤さんと佐藤さん』

監督:天野千尋/脚本:熊谷まどか、天野千尋/出演:岸井ゆきの、宮沢氷魚
藤原さくら、三浦獠太、田村健太郎、前原滉、山本浩司、八木亜希子、中島歩
佐々木希、田島令子、ベンガル/配給:ポニーキャニオン/©2025『佐藤さんと佐藤さん』 製作委員会/11月28日(金)全国公開

最初から記事を読む 「好きな人と相撲を取りたいという夢がある」と語った岸井ゆきのの真意とは?