クルマの普及で一転ピンチに
だが、戦後もしばらく経つと、モータリゼーションの時代がやってくる。全国各地の路面電車は、自家用車の普及に押されるようにして徐々に姿を消していった。そして、その流れは広島でも無縁というわけにはいかなかったようだ。
「広島市内でも急速に車が増えて、あちこちで大渋滞するようになった。基本的に、道路交通法で路面電車が走る軌道敷内にはクルマは入れないよう規定されています。ですが、その時期には全国で渋滞解消のために軌道敷内の通行禁止が解除されていったんです。その結果、路面電車が渋滞に巻き込まれて大幅に遅延するようになってしまいました」
渋滞するクルマに挟まれて身動きの取れない路面電車。当然、いつ目的の駅にたどり着くかもわからない。電車のメリットのひとつは定時性。それが失われてしまえば乗る人はますます少なくなるばかりだ。
県警がヨーロッパを視察していた幸運
「広島電鉄でも、他の都市と同じように路面電車を止めようという意見もあったようです。でも、当時の責任者が『将来を見据えたときに、広島には絶対路面電車が必要だ』と判断。そして軌道敷内へのクルマの乗り入れを再び禁止するよう広島県警にかけあったのです。当時の交通担当の関係者は、クルマ社会のアメリカを視察することが多かった。ところが、たまたま広島県警の担当者は路面電車が多く走っていたヨーロッパを視察していたんです。そのおかげもあって、無事に軌道敷内へのクルマ乗り入れが再び禁止されました」
利用者はおおむね横ばい
昨今、全国的に路面電車(LRT)の導入が議論されていることを思えば、まさに先見の明があったというべきか。いずれにしても、このときの広電と広島県警の決断が大きな分岐点となり、路面電車消滅への歩みは止まったのである。渋滞に巻き込まれなくなった電車は定時性を取り戻す。右肩下がりで減少していた路面電車の利用者数もV字回復を果たした。さらに自動車交通との両立を図るための道路の拡幅工事なども行われ、路線網が縮小されることもなく今に至ったのだ。利用者数は景気の動向に左右される面もありつつ、今までおおむね横ばいで推移している。