昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2018/08/06

広島の地盤は地下鉄に向かない

 また、もうひとつ高度経済成長期の"路面電車廃止"の流れを乗り切った理由があるという。それは、広島の地理的条件だ。太田川河口のデルタ地帯に広がる広島市街地は、大半が近世までは海だった軟弱地盤。そのため、東京や大阪のように地下鉄を建設することが難しかったという。

夕暮れの瀬戸内を走る3800形。宮島線直通の主力車両

「実際に広島でも地下鉄建設を検討したことがあったようです。でも、軟弱地盤に地下鉄を通すことでコスト面に課題があったとか。また、広島はそもそも東京や大阪ほど人口も多くないので、輸送量の面でも路面電車がちょうどよかったというのもあるでしょう」

1000形。超低床車両で、2013年製造の広電では最新車両。愛称は「グリーンムーバーLEX」

どんどん進化を続ける広電

 ともあれ、廃止・縮小を免れた広島の路面電車はその後も進化を続けてきた。1999年にはお年寄りや車椅子の人でも気軽に乗れるノンステップの超低床車両「グリーンムーバー」を導入。これを皮切りに現在では3割弱の車両が超低床車となった。さらに、横川や西広島などのターミナル電停では雨に濡れずに乗り換えができるように大幅なリニューアルを行うなど、利便性向上にも取り組んでいる。今年3月からはSuicaやPASMOなど全国の交通系ICカードの使用も可能になった。

各地で廃止された路面電車から広電に車両が移籍してきた

路面電車の歩みを伝える"動く博物館"

 広島の路面電車では、新たに投入した超低床車両はもちろんかつて各都市を走っていた古いタイプの車両も走り続けている。塩田さんは「できることなら1両は現役のままずっと残していきたい」と話す。今も現役の"被爆電車"や超低床車両など広電オリジナルの車両はもちろん、各都市から集まってきた古い車両も行き交う広島の町。まさに日本の路面電車の歩みを教えてくれる"動く博物館"である。

 原爆の惨禍からの復活、モータリゼーションの流れの中での路線網の維持、そして超低床車両の導入などによるバリアフリー化といった利便性向上……。広島の町が、紆余曲折を経ながらも残し続けてきた路面電車の文化は、他都市での路面電車(LRT)の導入計画の中でも大いに参考になりそうだ。

写真=鼠入昌史