AIに「内田樹のようなエッセイを書け」と指示したら?

内田 僕は2011年まで大学で教えていたんですが、最後の年のゼミ生が先日、久しぶりに訪ねてきたんです。訊いたら、みんな仕事で日常的にAIを使っているんですが、AIが書いた文章と人間が書いた文章は見分けられると言うんですよ。どこが違うのか。前に仲間と話しているときに、「今のAIはもう俺たちにそっくりの文章を書けるらしい」という話になったんです。中の一人が「内田樹みたいなエッセイを書け」とAIに指示したらこんなのが出てきましたと見せてくれたんです。

森本 読んでみてどうでした?

内田 たしかに使ってる語彙や論理の運び方みたいなものは似てなくもないんです。僕の書いたものをデータとして取り込んでるから、「いかにも内田が言いそうなこと」が書いてある。でも、読んでいて気持ちが悪いんですよね。この気持ちの悪さの正体は何だろうと考えたんですが、たぶん理由は、AIが書くのは、1行目から最後の結論まで全部わかって俯瞰している文章だったからなんです。

ADVERTISEMENT

森本 なるほど。

内田 僕の文章は、僕の今している話と同じように、あっちへ行ったりこっちへ行ったりふらふらするんです。思わぬ方向に転がっていったり、絶句したり、言い淀んだり、「さっきのは間違いでした」と前言撤回したりするんですが、AIの文章にはそれがない。スッキリしているんです。

森本 ゆらぎがないんですね。

内田 そうなんです。ゆらぎや隙間がないし、論理が飛躍することもない。最初から最後までフラットなんです。

内田樹さん (撮影:釜谷洋史)

AIに書かせた学長祝辞を読み上げて……

森本 そういえば、僕もICUから東京女子大に移った時に、卒業式でAIに書かせた祝辞を読み上げたことがあるんです。

内田 それ、どうなりました?

森本 「私が学生だった時、本学の国際交流センターで、みんなで中国の餃子を食べたり、アメリカのパイを食べたりして、海外の方と良い国際交流ができました。卒業する皆さんおめでとうございます」って話したんです。そしたら学生たちはびっくりして、今度の新しい学長はちょっとおかしいんじゃないかという顔をしていました(笑)。前の大学で使った祝辞を流用しているのかな、とか(笑)。つまり、AIは森本あんりっていう名前を女性と認識しているから、女子学生だったと思っているわけです。それで、こんな文章を出してきたんですが、そこで、種明かしをして、実は今の挨拶はAIが作ったものです、皆さんはこのようなことをしないでくださいね、と話しました。

内田 傑作ですね(笑)。AIには、なんて入力したんですか?

森本 女子大の卒業式の学長挨拶にふさわしい話を、ただし、ユーモアを入れて作ってくださいと指示したんです。そしたら、中国の餃子だとかアメリカのパイだとか、全然面白くないんですよ(笑)。AIって、冗談は作れないんです。冗談って、ソツのない一般論じゃ面白くない。個性をもったその人の〈人間〉が入ってないとダメなんです。失敗体験を含めて。

森本あんりさん (撮影:釜谷洋史)