内田 先日、遊びにきたゼミ生の一人が言うには、AIがもう親友なんですって。「チャッピー」と呼んで、毎日家に帰るとAIに恋愛相談をしたり、仕事でこんな嫌なことがあったって相談したりしているんだそうです。どうしたらいいか尋ねると、面倒くさがったりもせずにすぐに答えが返ってくるし、長く相談しているとデータが蓄積されて、アドバイスがきわめて的確になってきた。だから今ではもうAIとの夜の会話なしには一日を過ごせなくなってしまったそうです。

森本 それで最終的に自殺を勧めたりしないといいですが。

内田 そんなケースがあるんですか。

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森本 今年(2025年)の8月に、アメリカのカリフォルニア州で自殺した16歳の少年の両親がオープンAIなどを提訴したという報道がありました。医学部進学のための情報収集にChatGPTを使っていた少年が「人生には意味がない」と悩みを相談すると、ChatGPTは理解や共感を示し、自殺の方法についての情報を提示したというのです。

内田 そんなことが起きているんですか。AIは嘘つくんですよ。レポートを書かせると、ありもしない引用文献をでっち上げるので、文献リストがAIチェッカーになるそうですけれども、いずれAIも進化して、人間のチェックを出し抜くようになるでしょうね。

森本 学生だけじゃなくて、先生の方もたいへんです。大学の教授が学生のレポートを採点するのが面倒でChatGPTにさせたら、学生がその文中に教授の出した指示コマンドを発見して、学費返還の訴訟を起こしたというケースがありました。このケースは些細なミスで露見しましたが、実は知られていないだけで案外拡がっているのでは、と思います。

コンサルという仕事は消滅する?

内田 今の大学生の就職先として、コンサルが人気だそうですけれど、コンサルという仕事はそのうちなくなるんじゃないですか。だって、AIにデータを入力すれば、いかにもコンサルが持ってきそうな答えがすぐ出てくるわけですから、何も高いお金を払って頼む必要はない。

森本 そこに生身の人間が介在する必要がなくなるわけですね。


 続きはぜひ文庫でお楽しみください。全27ページにわたり、亡くなった名コラムニストの小田嶋隆さんの思い出など、縦横無尽に語り合っていただいています!

内田樹(うちだ・たつる) 1950年東京都生れ。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。神戸女学院大学文学部名誉教授。著書に『寝ながら学べる構造主義』『レヴィナスと愛の現象学』『老いのレッスン』ほか多数。『私家版・ユダヤ文化論』で小林秀雄賞、『日本辺境論』で新書大賞2010受賞。伊丹十三賞受賞。

 

森本あんり(もりもと・あんり)

国際基督教大学卒業、東京神学大学大学院修士課程、プリンストン神学大学大学院を修了(Ph.D.)。国際基督教大学教授、学務副学長を経て2022年に名誉教授。同年より東京女子大学学長。プリンストン神学大学やバークレー連合神学大学院で客員教授を務めた。『反知性主義』『不寛容論』(ともに新潮選書)、『異端の時代 正統のかたちを求めて』(岩波新書)、『魂の教育 よい本は時を超えて人を動かす』(岩波書店)など著書多数。

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