外は36ミリの大雨

 煌々と輝く大広間の光のなかで、「お前のような無愛想な男でも、こんなに楽しそうに笑うのだな」と、笑顔の親父の声が今も微かに残っている。果たして、ちょっと二日酔いの結婚式当日の伊勢は大雨。僕らが伊勢神宮の広い境内を歩いていた時間だけ強雨だった。後でアメダスで調べると、なんと1時間に36ミリの大雨だった。

 僕はこの雨も、“裕次郎の雨”だったと思う。事あるごとにその生涯に雨が付きまとった裕次郎叔父。大事な撮影でも生死を分ける手術でも、葬儀でも法事でも必ず一雨きた。

偉大な叔父・石原裕次郎 ©文藝春秋

 總持寺の本堂で読経が始まらんとする時、本堂の屋根を叩きつけるように雨が降る。雨音を聞くと、叔父もこの場にやって来たと確信したものだ。この日の伊勢にも、叔父は来てくれた。

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 伊勢神宮では皆に祝福された楽しい式を挙げられた。披露宴はそれから2ヶ月後に赤坂プリンスで行われた。その時、親父から二つのことを厳令された。親父にしてみれば、息子の結婚式は3回目。同じ事の繰り返しを何より嫌う親父は、息子の結婚式に飽きていた。

 まず一つは、ともかく披露宴は短く、2時間以内に。結婚式の長いスピーチには飽き飽きしていたのだろう。そして政治家を招待するなと言う。しかし、式が大きくなると人の出入りや料理の出し引きだけでも時間がかかる。招待客の人選を絞るほかない。それでも招待客420人のそこそこ大きな式になってしまった。

 大きな式場では何が起こっているのか遠くの席では分からない。そこで僕は、会場の両端に大きなビジョンを入れることにした。式の進行をカメラで捉え大画面に映せば、会場の全員がライブを楽しめる。知り合いの制作会社の社長に相談すると、テレビ中継車を宴会場に横付けした方が手っ取り早いとトントン拍子に話が進んだ。