「入社3か月で辞めたい」
自分の希望通りの配属や担当業務に就ける人は少数派。多くの人は意に沿わない決定に不満を持ちつつも受け入れ、それに適応してきた。悲しいかな一社員はコマと同じ。加納さんは自分の経験を交えて諭したが、次男には理解できなかった。
「入社3か月で辞めたいと言い出して。10月には本当に辞めてしまった」
年が改まった翌年1月に第二新卒扱いで再就職したのは食品商社。
「ここも張り切って働いていたのは5か月ぐらいでした。人間関係というか、物静かでおとなしい次男と職場の人たちは相性が合わなかったみたいです」
奥さん経由で聞いたところでは、上司や先輩に名前を呼び捨てされた、ミーティングのとき他の社員が何人かいるところで叱責された、取引先の担当者にお前呼ばわりされたとか。
「プライドが傷ついた。下品な馬鹿どもと関わりたくない、なんて言っていたそうです」
加納さんは「そんなの大した問題じゃないだろう」と思うが、自らの会社で次男と同年齢ぐらいの若手社員に聞いたところ、そういうことを異常なほど気にして根に持つ人が少なからずいると教えられた。
「うちの若手の話では、小中学校では君付け、さん付けで呼ぶように指導されるし、あだ名を付けるのも禁止なんだそうです。注意や指導は一対一で、他の子がいないところでする。普通の公立校でもこうなんですって」
普通に「おい、○○」と呼び捨てで会話するのは高校生になってから。しかも極めて親しい間柄だけ。会社の若手によると、大学時代の同級生やサークル仲間には、呼び捨てにされたりお前と言われたりしたのがショックで退職した人が4、5人いるという。
「我々の時代とはまったく違うので面喰らいました。自分らしく生き生きとか個の尊重というのは理解できるけど、打たれ弱くなっていると思いましたね。まっ、こんなことを口にしたら老害と批判されるんでしょうが」