店舗前に警察・治安部隊が集結する「騒動」に
多数の抗議者が集まった背景には、オープンに先立ちSHEINがオンラインで幼児を模したようなラブ・ドールや、「カテゴリーA」と呼ばれる武器を販売していたと発覚したことが大きく関係している。フランス政府はこれを受け、SHEINを含む主要EC企業を一斉監視対象とし、司法当局へ通報した。
店舗周囲には警察が多数配置され、黒い制服に身を固めた治安部隊が店舗入口を横一列で封鎖。市民が押し寄せた際には、盾を前に出す場面もあった。
警察によれば逮捕者は限定的で、大規模な衝突や負傷者は出ていない。それでも、パリ中心部の百貨店が物々しい装備の部隊によって守られる状況自体が異例であり、SHEINに対する世論の怒りを象徴する出来事となった。
なぜパリ市民はここまで「ブチギレ」したのか
パリの中心で起きた騒動を理解するには、まずBHVという場所がパリ市民からどう受け止められてきたかを押さえておく必要がある。
BHVは1856年創業で、パリ市庁舎の真向かいという歴史的中心地に建ち、周囲には観光客が絶えない。しかし、店内の主役はあくまで地元の人々だ。家の修理のために工具を買いに来る若者、毎週のように通う年配の常連客、ちょっとした自分へのご褒美にお菓子や雑貨を買いに来る女性客まで、訪れる客層は幅広い。
地下には広大なDIYフロアが広がり、家電売り場の店員は「その髪きれいだね、Dysonのドライヤー使ってるの?」など気さくに声をかけてくるような、親しみやすい雰囲気もある。さながら「少し高級なハンズ」といったところか。
日常に根差しているという点で、パリの有名デパートとして知られる、ギャラリー・ラファイエット、ボン・マルシェ、サマリテーヌといったラグジュアリー百貨店と性格が異なる。BHVは「暮らしのための百貨店」として、長年パリ市民に愛されてきたわけだ。単なる商業施設ではなく、市民の生活文化そのものを象徴する場所なのだ。
そんな空間に、環境負荷、労働搾取、大量廃棄などの問題で取り沙汰されているSHEINが常設店として入居する——この事実は多くの市民にとって「生活文化の中心が汚される」という強烈な拒否感につながった。筆者の知人のフランス人女性は「路面店ならまだしも、BHVに入るのはショックだった」と話していた。
SHEINに対する拒否感が広がるのは、市民だけではない。BHVの内部を歩くと、さらなる「SHEINショック」が見て取れた。

