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「根拠のない自信」という理屈にならない自己愛

 10年、文章を見た経験を基に、いまの大学生の特徴をまとめてみる。(1)真面目、(2)プライドが高い、(3)自分に自信がない、(4)「人に嫌われたくない」思いが強い――などだ。

 関連して強く印象に残っている言葉がある。1年目だったか、ある男子学生が授業の感想の中で書いてきた。「自分には根拠のない自信がある」。「面白い表現だ」と思ったが、後で、これがいまの若い世代を理解するキーワードではないかと思うようになった。「『自分にはこれがある』と自信を持てるものはないが、自分は特別だ。それは自分が自分だから」「ダメな私。でも好き」。そういった、理屈にならない自己愛が多くの若者にある。

「私の夢」という文章課題を出したことがある。提出された文章を読むと、「夢を持っていない」と、課題自体に戸惑いを見せる学生が目立った。就職活動を通した職業選択と結びつけた人が大半だったが、夢と現実に就く職業を分けて「夢なんて言っていられない」と“居直る”学生も。さらに驚いたのは、現在の趣味や嗜好について語った後、社会に出てからの時期をすっぽり抜け落として、「ハワイに住みたい」など、老後の夢に飛んだ学生が何人もいたことだ。人生の中核であるはずの青年―中年期のイメージが持てないとは! 自信を持てるものがなく、就職した世界に染まってみないと何ともいえないということだろう。

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具体的な物語として語ること

 彼女ら彼らにとって大事なのは、自己PRをうまく書くことではなく、まず、アピールできる「根拠のある自信」を持てるようにすることだろう。

 例えば、「自分はこのことについてなら1時間は話せる」というものを1つでも持つ。ゲームでもアニメでもいい。「この物語なら語れる」というテーマを身に付けることだ。それを文章にして表現する場合は、自己愛を極力抑える。自己愛が表れた文章は、読み手が企業の就活担当者でなくても「引く」。

 そして、細かいと思われてもいいから、具体的な物語として語ること。その際は、受け手を具体的に想定する。企業側の人にではなく、友人や知人、恋人らに語り掛けるように書くことが、内容を分かりやすく伝えるコツだ。

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 その点で、いまの若い世代には有利な条件が1つある。ツイッターやフェイスブックなど、SNSが急速に普及、拡大していることだ。

 名古屋の女子大の授業で自分史を書いた学生は「私たちの世代は、SNSで自分が考えたことを発信するのに慣れている。自分史を書くことに抵抗のある人は少ないのでは?」と言った。「これまでの自分を見つめ直し、将来に向けて歩みだすための、文章による自己表現」。それが私の考える自分史だ。若者にこそ自分史の考え方が必要だとあらためて思う。

自分史のすすめ (平凡社新書)

小池 新(著)

平凡社
2018年5月15日 発売

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