立教大学で昨年度まで10年、文章実習の授業を担当した。その中で何人かの学生から「エントリーシートの書き方を教えてほしい」という声を聞いた。就職活動(就活)で企業に志望理由などを書いて提出する書類。その中で、自分はどういう人間かを説明する「自己PR」について、学生たちは「どう書けばいいか分からない」と口をそろえた。

 私の答えは「企業がどういう人間を求めているのかが分からなければ、自己PRは書けない。私ができるのは、文章としておかしいところがないかのチェックや、こう書いた方がいいというアドバイスだけ」だった。私にも、もう40年以上前だが就活経験がある。その時も、自己紹介で自分をどこまでさらけ出していいのか、かなり迷った。

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高校の授業に「自分史」が取り入れられていた

 20歳を少し過ぎたぐらいで、歩んできた道を振り返って自分のいいところ、悪いところを正確に把握できる若者はほとんどいないだろう。多くが悩み迷い、時には苦しむ年代だ。そんな大学生がほとんど初めて、社会に正面から向き合うのが就活。

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 現在の学生にとって就職の意味は、かつてよりはるかに大きい。「就職でその後の人生は決まってしまう」と考える大学生が大多数だ。そうした考えには問題があるが、学生の現実の悩みには答えてあげたい。どうすればいいか考えた。

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 以前から「自分史」に関心を持っていた。調べてみると、いろいろなところでさまざまな取り組みが行われていることが分かった。

 大学や高校の授業にも取り入れられていることを知り、「若い世代が自分史を?」と驚いた。千葉県の私立高では、2年生段階での文系・理系のコース分けのために、1年生に自分史の文章を書かせていた。名古屋の女子大では、社会学の授業で、学生がいじめられたり、引きこもりになったりした体験などを文章にし、それを教室で本人も含めた学生全員が読んで討論していた。受講した卒業生らは、その体験を自己アピールなどに結び付けて就活に生かしていた。「これだ」と思った。

 いまの自分史は中高年のものと考えられる傾向が強い。しかし、自分史を「自分を見つめ直して自己表現する」ことだと捉えれば、就活を筆頭に、その機会が必要なのは実は若者ではないのか。