「多くのカリスマ創業社長と言われる人が、引き際に失敗して、晩節を汚している」
なぜ今、社長を辞めるのか――。12月12日をもって27年間務めた社長職を退き、会長に就任したサイバーエージェントの藤田晋氏。発売直後から大反響のベストセラー『勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術』(文藝春秋)で彼が綴った「引き際の美学」とは?(全2回の2回目/最初から読む)
◆◆◆
社長を引き継ぐためにやった「2つの研修」
その成長とは何か。簡単に言えば、社長の私とツーカーになったという感じだ。「これはアリですよね」「ナシですね」「これはやるべき」「やらないべき」こういった意思決定における価値観が自分と楽に一致するようになった。社長からしてみれば、幹部たちが有効なアイデアを出し、意図した方向にどんどん動いてくれる、こんなに楽なことはない。
明らかにそれに寄与した研修は二つある。一つは「引き継ぎ書」研修だ。私が長年、感覚でやっていたサイバーエージェントの社長業は、言語化しておかなければ誰かに引き継げない。そこで、100項目以上にわたる引き継ぎ書を自分で作成した。そしてその内容について、私が講師となり、合宿研修でみっちりと講義を行ったのである。ずっと近くで一緒に働いていた仲間たちだけど、社長の立場で物事を考えるのはまた別モノだったのだろう。初めて聞くような顔をして、皆が熱心に私の話を聞いてくれた。その理解度においても、日々働いている自分の会社のことだから、納得度が高かったようだ。
もう一つはリクルートマネジメントソリューションズという会社に委託した、「CE(コミュニケーションエンジニアリング)研修」がすごく良かった。CE研修の中身は、社長の意思決定を追体験するものだ。時代背景や事業環境を踏まえた当時の状況を再現し、シャレにならない重圧の中、どのようなプロセスで意思決定したかを体感してもらう。
社長の仕事というのは他人に分かりづらいようで、若手社員からはよく「社長って、普段なんの仕事してるんですか?」と質問される。
