『シェルブールの雨傘』を観てミュージカルに
しかしこのテーマを、なぜあえてミュージカルという手法で語りたかったのだろうか?
「たまたまジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』を観ていて、突然思いついたんだ。ミュージカルという手法を借りて、人類の滅亡や究極的な死が待ち受けているにも関わらず、明るい未来が待ち受けていると提言する映画にしてはどうか。非常にアメリカ的な、偽りの希望を与えるというスタイルをとりつつ、実際そこにあるのは希望ではなく絶望でしかない、と。それで映画作家として第二の人生を歩む決心をした(笑)。シェルターを舞台にしたミュージカルでいこう、タイトルは『ジ・エンド』にしようと。登場する家族をアメリカ人にしたのは自分がアメリカ人であり、このような映画はアメリカ型の映画であるからだ」
環境破壊により地表が生活不可能の不毛な地になって25年。20歳の息子と父母、執事と医師、母の親友がプールまで完備された豪華なシェルターで生活している。息子は外部での生活を知らず、父は回顧録の執筆に、母は名画で飾られた完璧なマイホームを守ることに没頭している。そこにある日、外部から逃れてきた少女が転がり込むと、今まで保たれていたシェルター内部での生活とそこに住む彼等の心のバランスが大きく揺さぶられるのだった……。
ティルダ・スウィントンが出演した理由
これまで多くの個性的なアーチストや監督とコラボしてきたティルダ・スウィントン。安楽死を扱う『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(24年)での演技が記憶に新しい。本作への出演の動機についてこう語る。
「ジョシュア・オッペンハイマーはぜひ仕事をしてみたい人の一人だった。またシェルターの場面を撮影する洞窟の写真を見たとき心奪われ、この映画に出てみたい、完成作を観てみたいという強い気持ちが湧いてきた。本作で提起される疑問は、人類がこういった苦境に置かれた時にいかにふるまうか? というもの。それについてジョシュアと共に回答を見いだせたらと感じた。本作の製作はオデッセイのような旅であり、言い尽くしがたい豊かな体験だった」
