1965年に起きたインドネシアの軍事クーデターにおける大虐殺事件の実態を、加害者の目から描いた『アクト・オブ・キリング』(2012年)でアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされたジョシュア・オッペンハイマー監督。14年には同テーマを被害者の視点から描く『ルック・オブ・サイレンス』を製作し、ドキュメンタリー作家として人道的な作家精神とその創作姿勢が高く評価されている。
最新作にあたる『THE END(ジ・エンド)』は初のフィクション長編作。ガラリと手法を変え、地下シェルターで生活する家族の心理を描くミュージカル作品となる。ティルダ・スウィントン、マイケル・シャノン、ジョージ・マッケイという著名な出演者、初のミュージカル執筆とロケ撮影。多くの新しい挑戦に、普通の人ならおじけづくはずだが……。
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「実のところ僕もそうだった。ティルダや、ジョージ、(共同)脚本家のラスマス・ヘイスターバーグや、撮影監督のミカエル・クリチマン、翻訳家など、多くの人に助けてもらわなかったら実現しなかったプロジェクトだと思う」と、オッペンハイマーは打ち明ける。
そして作品の発想について、
「もともとは暴力を駆使して石油採掘の権利を入手し、暴利をむさぼる中央アジアの石油王をテーマにした映画を作ろうと思っていた。ある石油王と知り合いになり、彼が地下にシェルターを建設していると知った。そこに招待され、洞窟を歩きながら感じたんだ。自分たちだけが大災害を逃れたときの罪悪感とはどんなものだろう? 後に残してきた人たちに対してどんな気持ちを抱くのだろう? シェルターに避難するためにはどんな嘘を家族につくのだろうか? などなど、様々な疑問が湧いてきた。僕自身それにはとても答えられなかった。シェルターを見学して、自分の中に様々な疑問が喚起されたんだ」
