息子役を演じるのは『1917 命をかけた伝令』(19年)で主役を堂々と演じ、『けものがいる』(23年)ではフランス語の台詞を流暢にこなしたジョージ・マッケイ。常に演技の限界に挑戦し続けている。
「ジョシュアのドキュメンタリーにはなじみがあった。劇場で観たときの衝撃は忘れない。本作はテーマを正確に追求するためにミュージカルという形式を選んだという彼のコメントを、脚本と同時にもらった。それで背後にある意図を明確に理解できた。また共演者がティルダということで、それもこの役をやりたいと思った大きな要因となった。撮影監督のミカエル・クリチマンをはじめスタッフも素晴らしく、彼らと一緒の仕事だったらぜひやりたいと思ったんだ」
父親役を演じるマイケル・シャノンは、舞台俳優出身でジェフ・ニコルズ監督とのコラボも多い。加えて美しい歌声が魅力的なモーゼス・イングラムが少女役を演じる。キャスト全員の説得力ある演技は格別で、それぞれが専業ではない歌を堂々こなすあたりがとにかく圧巻で、見ごたえがある。
シチリアの洞窟の驚くべき景観
さらに地下シェルターの背景として登場する洞窟の特別な地形も観る者の目を奪う。イタリアはシチリア島の塩抗(塩を掘り出した穴)だという白い洞窟は、古代的でもあり未来的でもあり、自然が生み出した驚くべき景観だ。シェルターの内装は、伝統的なスタイルの家具や奢侈な丁度品と世界中から集めたような名画で埋め尽くされ、これも観る者の好奇心をくすぐる。
このドラマチックな景色を背景に、本作は環境破壊や人類の未来の危機という深刻かつ大きな課題について問いかける。人類がほぼ滅亡したような世界で、自分たちだけが贅沢で平穏な生活を続けるこの家族の存在に、大きな疑問符を投げかけるのだ。
ティルダ・スウィントンは、
「問題が深刻であればあるほど人は口をつぐみがち。人の無関心さが問題の中核にあると思う。移民問題やそれに関する法律、人種偏見や性的偏見、男尊女卑、それらを黙認する、それが資本主義の基本的構造だと思う。沈黙なしに資本主義は機能しない。そこに焦点を絞り修正しようとするなら、問題を解決できる可能性が出てくるのではと思う。他人を搾取する富裕層が存在しえるのは、彼等自身、そして我々大衆がその現実に目を向けないから」

