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 張は従業員九万人のハイアールという巨大組織を、十人程度の小集団に分けて管理している。京セラの稲盛和夫名誉会長が編み出した「アメーバ経営」によく似ている。

 本社にある張の部屋には、ピーター・ドラッカーやアルビン・トフラーの著書と並び、稲盛のほか松下幸之助、井深大など日本の経営者の著作が揃っている。その張によって日本メーカーが市場を奪われているのは、なんとも皮肉だ。

 張が掲げるもう一つのスローガンは「没有成功的企業、只有時代的企業(企業に成功はない。その時代に合った企業があるだけだ)」。

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 中国の若者の間で大人気を博しているゲーム専用パソコン「雷神911」。このパソコンを作っているのは三年前にハイアールの社内ベンチャーとして起業した雷神科技。経営陣は三十代だ。「全社員が創業者になるべきだ」という張の発案で生まれた社内ベンチャー制度を使い、これまでに百八十社が設立された。

 GEの白物家電部門を買収した際のアライアンスも大きな意味を持つ。ハイアールはGEが開発したIoT(物のインターネット)の基本ソフト「プリディックス」を採用する。

 プリディックスは、インターネットにつながった白物家電を制御するソフトである。GEは「家電事業から手を引く」のではなく、最強の家電メーカーであるハイアールと組んで世界の家電市場の支配を目論んでいるのだ。彼らが近い将来、発売する次世代家電は、ネットとつながって新しい価値を生み出すだろう。

 一二年に「メイド・イン・ジャパン 逆襲のシナリオ」(NHK)に出演した張はこう語っている。

「日本の大手企業の経営者は、先輩経営者と比べると起業した経験が不足している。彼らの多くは部署の長として経営者に抜擢されてきており、全体をコントロールする能力が劣っているような気がします」

 何にでも手を出すが、世界一の製品が一つもない。コングロマリット・ディスカウントの罠にはまった日本の総合電機の弱点を見事に突いている。松下幸之助や稲盛和夫の遺伝子を正しく受け継いだのは、日本のサラリーマン社長ではなく、張だったのかもしれない。