二〇一五年の売上高三百二十八億ドル(三兆二千八百億円)、最終利益二十四億五千万ドル(二千四百五十億円)。世界百カ国以上で白物家電を販売し、ブランド別世界シェアは一五年まで七年連続で世界一(英調査会社ユーロモニター調べ)。
白物家電の世界帝国「海爾集団(ハイアール)」を一代で築き上げたのが会長兼CEOの張瑞敏だ。米ゼネラル・エレクトリック(GE)を再興した名経営者になぞらえ「中国のジャック・ウェルチ」と呼ばれる。
山東省の労働者階級に生まれ、文化大革命の時には紅衛兵として活動した。青島の国営建設会社で働いていた張は一九八四年、手腕を買われ万年赤字の冷蔵庫工場「青島電冰箱総廠」の工場長に任命された。
工場は惨憺たる有様だった。八時の始業に合わせて集まった従業員が十時には帰り始める。数百人が働く工場にトイレは一つしかなく、従業員たちは構内で勝手に用を足した。
誰がやってもうまくいかない工場に、四人目の工場長として送り込まれた張の最初の仕事は、「大小便禁止」など十三のルールを書いた紙を構内に張り出すことだった。
次の年には不良品の冷蔵庫を山のように積み上げ、ハンマーで粉々にさせた。当時の中国では、不良品は手直しして出荷するのが常識だった。自分の給料の何ヶ月分もする冷蔵庫を「壊せ」と言われた責任者の手は震えたが、張はこのパフォーマンスを通じて従業員に品質の大切さを分からせた。
張はM&Aの名手でもある。
「生きのいい魚は捕まらないが、死んだ魚を食べれば腹を壊す。私はショック状態の魚を食べる」
設備や技術といったハードは健在だが、組織や管理といったソフトの不全で業績が悪化した企業を選んで買収し、ハイアール流に染め上げることで復活させた。一二年に買収した三洋電機の白物家電部門でも、長年赤字が続いたタイの冷蔵庫工場を黒字化させるなど、企業再生の腕前を証明している。
青島のハイアール本社には巨大な垂れ幕がかかっている。ひときわ目を引くのが「譲毎個人成為自己的CEO」の文字。「一人一人がCEOのつもりで顧客に接しろ」との意味だ。