次の米大統領は共和党のドナルド・トランプか、民主党のヒラリー・クリントンか。彼らはすでに知っているはずだ。彼らとは、米グーグル(親会社は持ち株会社のアルファベット)の創業者、セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジのことである。
検索、地図、電子メール。インターネットを使うとき、世界の人々はグーグルが無料で提供するこれらのサービスを毎日のように利用する。その度に彼らは利用者から膨大な情報を入手する。「ビッグデータ」と呼ばれるその情報を解析すれば、大統領選の結果を予測することなど造作もない。八年前には、まだ予備選の段階で、ダークホースだったバラク・オバマの勝利を予測していた。
グーグル幹部がその事実について、うっかり口を滑らせた時、人々は権力者がコンピュータで大衆を監視する「ビッグ・ブラザー」を想起し、戦慄した。以来グーグルは自分たちが見ている未来について多くを語らなくなった。だが、グーグルが手にするデータ量は飛躍的に増えており、未来を見通す力はさらに高まっている。米国で「グーグルを適切な監視の対象にしろ」という意見が根強く残る所以である。
今年二月には株式時価総額が五千七百億ドルに達し、アップルを抜いて世界一に躍り出た。会社設立からまだ二十年経っていないことを考えると、驚異的な成長ぶりである。
ブリンはロシア出身。両親ともに優秀な数学者だったが、ユダヤ人ゆえ活躍の場を得られず、ブリンが六歳の時、一家はアメリカに移住した。新天地で父は数学教授、母はNASA(米航空宇宙局)研究者の職を得た。九歳の誕生日にパソコンを贈られたブリンは、数年後に引力をシミュレートするプログラムを作るなど天才ぶりを発揮。自らを「オタク」と認める彼は「数学的に美しい思考法への愛着」をよく口にする。
一方のペイジは、ミシガン州立大学でコンピュータ・サイエンスの教授を務める父とデータベース技術者の母の間に生まれた。七歳でパソコンを触り始め、十二歳の時、電気や無線通信の分野で偉大な研究成果を残しながら極貧のまま死んだニコラ・テスラの伝記を読み「発明だけでは意味がない」と悟った。