優しくも切ない除霊のやり方

 適切な距離感を保ちながら、少しずつ透と鹿住家での仕事に馴染んでいく秋生だったが、店に緊張した面持ちの客がやってきたことで事態は一変。小松と名乗ったその男性は、透に“霞を払ってほしい”と依頼してきた。透の本業は貸本屋ではなく、特殊な力によって霊を祓う「祓い屋」だったのだ。

写真はイメージです。

 鉄道会社に勤める小松の話では、2か月ほど前、電車への飛び込み事故が起こって以来、駅では女性の幽霊が現れるという。別人のようにてきぱきと対応する透の様子に驚きながら、ともに現場の駅に向かった秋生は、そこで信じがたい光景を目の当たりにする。幽霊の出現と、透による鮮やかな除霊だ。透がどのように霊を祓うかは、ぜひ本を読んで確かめていただきたいが、貸本屋という副業とも密接に絡んだ、ユニークなスタイルの除霊であることはお伝えしておこう。

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 そしてこの透の除霊スタイルが、本書を優しく、切ないものにしているのは間違いない。死後もこの世をさまよう幽霊たちは、一見すると不気味で怖ろしい存在だが、透はそれを拒絶することはしない。幽霊たちも生前は固有の名前を持ち、自分だけの人生を歩んでいる人間だった。透はその存在に寄り添い、その声に耳を傾ける。そしてその行為が、迷える魂を成仏へと導いていく。初対面の人が苦手な透だが、実は誰よりも他者のことを分かろうとしているのだ。