白昼にデリヘル嬢を刺殺しながら“懲役6年”で出所した男がいた。暴力と性欲が直結した危険な性癖を抱えたまま社会に戻った彼は、わずか1年9カ月後、再び女性を襲う――。止められなかった凶行の全貌とは? 平成26年・関西地方で起きた事件をお届け。なお登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/続きを読む)
◆◆◆
女性殺害の男が「懲役6年」で済んだ理由
2005年、白昼に呼び出されたデリヘル嬢(当時21)が客の男に刺殺される事件があった。その客は当時54歳だった白木康司(63)。20年以上前にバツイチとなり、自宅でリフォーム業を営んでいた。
デリヘル嬢の遺体には果物ナイフで腹部を数回刺された痕跡があり、白木も自分の腹に果物ナイフを突き刺してケガをしていた。白木は10日ほど入院した後、殺人容疑で逮捕された。
だが、白木は「犯行時は多量に飲酒していて、断片的な記憶しかない」と言い張った。業を煮やした捜査員は殴る蹴るの暴行を加え、無理やり供述調書を作った。
その取り調べの直後、接見した弁護士が唇から血を流している白木を見て、暴行を確信。当時、弁護士会が利用を呼びかけていた「被疑者ノート」を差し入れ、取調官の言動を記録させた。
《髪を持って引きずられ、土下座の姿勢で靴で頭を10回、顔を1回蹴られ、唇が切れてはれた》
《あごを裏拳で10回殴られた。脱いだ靴で頭を5回殴られた》
弁護士は顔などを撮影した写真を添付し、被疑者ノートの証拠保全を裁判所に申請。裁判所は請求を認め、改めてケガの様子を撮影するなどの検証を行った。
検察側は「被告人が自分で机に顔を打ち付けた」と主張したが、裁判所は「暴行に関する被告人の供述は具体的で、ケガの箇所が被疑者ノートとも一致しており、信用性が高い」として、該当する日の供述調書2通は「任意性に疑問がある」として却下した。
また、白木の刑事責任能力についても「無抵抗の被害者を何度も刺した残忍な犯行だが、数日前から飲酒していた影響で犯行当時酩酊しており、心神耗弱状態だった」として、求刑15年に対して「懲役6年」という軽い判決を言い渡した。
