SNSで製造される「怪物」

 中国国内ではSNSプラットフォーム企業は当局からの制裁を恐れ、政権に不都合な投稿や画像を洗い出し、自己規制・削除するため、官製のナラティブや宣伝がSNS空間を埋める。共産党が不都合と判断した「事実」は伝えられず、社会で起こっていることが見えなくなる。ある中国人知識人は「ウソにより人々はナショナリズムを高め、『怪物』になっている」と語る。

 冒頭に挙げた「抗日戦勝軍事パレード」も、「怪物」を製造する宣伝装置である。習近平はパレードで、「共産党は、日本軍国主義を打倒し、西洋列強や日本に領土や主権を荒らされた『屈辱の歴史』を終わらせた。今や屈辱は遠い過去となり、『強国』になり超大国アメリカと対峙している」というナラティブを喧伝した。

 習近平は、統治の正統性の柱として「強い中国」を掲げる。強国になったことをアピールし、ナショナリズムや愛国心を奮い立たせ、求心力につなげる狙いだ。

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「負け組」の不満を「反日」に吸収

 だが中国では、不動産バブル崩壊で不況が長引き、大学を出ても就職口がない。内需低迷やデフレ圧力も重なり、経済の先行きは暗い。経済成長の恩恵を受けた「勝ち組」と、十分な教育を受けられず、定職にも就けない「負け組」が、はっきりと分かれる不公平な社会だ。時間を持てあまして一日中、SNSを見ている負け組の不満を共産党に向けたくない。軍事パレードを見て「強国」に興奮し、ナショナリズムの「怪物」となった彼らの不満や怒りを「反日」に吸収させている。

 抗日戦勝八十周年に合わせて南京事件(1937年)を題材にした映画『南京写真館』が公開されたが、鑑賞後に日本への憎しみを爆発させる子どもの様子がSNSで拡散された。「歴史の記憶」の再生産も「怪物」を生む懸念を高める。24年9月に深圳の日本人学校に通う男児が刺殺されるなど、日本人襲撃事件が相次ぐが、動機や事実関係が不明なまま、日本人が狙われる危険が高まっている。