本当に捕食目的だったのか?
その後、DNA鑑定によって駆除されたクマが被害者を襲ったクマであったことが確認されたが、同時に驚くべき新事実も判明した。
なんと問題のクマは、4年前の2021年に同じ福島町内で農作業中だった77歳の女性を襲って死亡させたクマと同一個体だったのである。この被害女性も亡くなった後に食害されていた。
そのためメディアでは、問題のクマについて「今回も捕食する目的で被害者に近づいたのでは?」「人食いグマが再び」と4年前の事故と関連づけるような報道もあった。
だが事故後に現場周辺に3回入った石名坂は、その見方には否定的だ。
「もし人肉に執着していたのなら、4年前の事故の後、それほど間をおかずに次の襲撃があったはずです。過去のケースを見ても、人間の捕食が目的の場合、クマの襲撃は短期間に連続して起こるのが特徴的です。最近では大千軒岳のケースがそれに該当すると思います」
“大千軒岳のケース”とは2023年11月2日、北海道渡島半島の南西部にある大千軒岳(標高1072m)の中腹付近で、10月29日から行方不明になっていた当時大学生だった男性の遺体が発見された事故を指す。遺体には食害された形跡があり、その近くからは喉付近に深い刺し傷のあるヒグマの死骸も見つかった。実はその2日前の10月31日、同じ山を登山中だった3人の消防隊員がヒグマに襲われたが、そのうち1人がナイフで反撃し、撃退するという事案が起きていた。
時系列としては、クマはまず大学生を襲い、その2日後に3人の消防士を襲ったものの反撃を受け、大学生の遺体のある場所まで戻り、その傷がもとで絶命したことになる。
「食害目的であれば、それぐらい襲撃のスパンが短くなる。その点、今回の福島町のケースでは前の襲撃から4年も空いているので、少なくとも積極的な捕食目的ではないと見ています。むしろ生ゴミ目的で徘徊している最中に、不幸にも被害者と遭遇し、防衛反応として攻撃してしまった可能性が高いのではないか」
だが防衛反応としての第一撃で被害者が倒れたことで、クマの“目的”は変化してしまった。
「その後の“被害者をヤブの中に引きずりこむ”という行動は、明らかに防衛反応ではなく捕食行動です。クマの中で途中から完全にスイッチが切り替わってしまったんだと思いますが、その切り替えの早さに4年前の経験が影響していたのかどうか。そこは正直わかりません」

