あれほど動かなかったことが、これほど急激に進むものなのか――。

 2025年11月14日、日本政府が公表した「クマ被害対策パッケージ」の内容を読みながら、私はちょっと呆気にとられた。〈人の生活圏からクマを排除するとともに、周辺地域等において捕獲等を強化することで、増えすぎたクマの個体数の削減・管理の徹底を図り、人とクマのすみ分けを実現する〉という目的のもと、そこには〈警察によるライフル銃を使用したクマの駆除〉まで行うことが明記されていたからだ。

ヒグマ(北海道斜里町) ©時事通信社

“山”はあっさり動いた

 筆者がクマの取材を始めて5年ほどになるが、“クマ撃ち”のハンターや猟友会関係者に取材する中で、誰もが口を揃えていたことがある。

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「猟友会に丸投げの駆除はもう限界。持続可能性を考えるならガバメントハンター(野生動物の捕獲・駆除を専門的に行う公務員ハンター)や警察にクマ駆除の専門部隊を作るしかない」

 彼らはこれを10年、いや20年以上前から言い続けていたのだが、現実にはほとんど進展がなかった。ところが未曾有ともいうべき2025年のクマ被害を受けて、政府が重い腰を上げた途端、これまでピクリとも動かなかった警察という“山”があっさり動いたのである。(全3回の3回目/#1から読む

◆ ◆ ◆

「これまで口を酸っぱくして言い続けても動かなかったものが……私も本当に急すぎてびっくりしているところもあるんですけど、基本的には良い方向だと思っています。改めて政治って大事なんだなと実感しましたね」

 そう苦笑まじりに語る「野生動物被害対策クリニック北海道」代表の石名坂豪は自身も狩猟歴25年を超えるハンターである。

「山の中ならともかく、市街地に出てきたクマの駆除を民間人である猟友会のハンターが担うという従来の態勢は、やっぱりどう考えてもおかしかった。何か事故があった場合の刑事上の責任というリスクも、市街地では跳ねあがりますから」

札幌の町中に出没した158キロのオス ©時事通信社

市街地に出たクマを警察官が本当に撃てるのか?

 そういう意味で、市街地での駆除対応を警察主導で行うという方向性は望ましいものであることは確かだ。一方でこんな疑問も浮かぶ。

〈射撃技術と相応の装備はあるにせよ、市街地に出たクマを警察官が本当に撃てるものだろうか?〉

 石名坂の答えは明快だ。

「射撃技術という意味では、普通のハンターよりもよほど優れているでしょうから、撃つこと自体に問題はないと思います。ただ市街地での駆除は、周辺に一切の危険を及ぼさず安全に捕獲しなければいけない。そこが最もハードルの高いところです。当面は猟友会や我々のようなハンターがサポートに入るにしても、本当の意味でオペレーションできるようになるには結構時間がかかると思います」