“手負いの若グマ”がハンターに突進

 ただそれも弾が「急所」に当たっていれば、の話である。

「私の知り合いのベテランハンターの方が、1発目の狙いが外れて小さな若グマの臀部を撃っちゃったことがあるんです。そうしたらその若グマはふらつきながらも急に小走りで向かってきて、のしかかってきたそうです。そのハンターは銃を叩き落とされながらも何とか反撃して、仕留めたものの、両腕や下あごを噛まれ、額の一部の皮を剥かれて骨が見えるほどのケガを負い、しばらく入院を余儀なくされました」

 そのクマは体重わずか25kg、ゴールデンレトリバーほどのサイズだったというが、手負いの状態でもそれだけのケガを負わせる膂力がヒグマにはあるのだ。

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朱鞠内湖で釣り客を襲ったと見られるクマ。船上から撮影された直後に駆除された(上川総合振興局提供)

 こうしたことをふまえると、警察官がライフルでクマを撃つというのが、そう簡単なことではないことがわかる。

「私が懸念しているのは、例えば警察が使用するライフルのスペックというのは公開されていないんですね。もちろん保安上の機密なんだとは思うんですが、それでも市街地で確実にクマを即倒させる(または即時無力化する)ためには、そこは非常に大事なポイントだと思います。

 ライフル銃の弾頭直径や薬きょうのサイズには非常にたくさんの種類があって、各規格間には互換性がない。クマを倒すのに必要とされる、最低限の弾のエネルギーをちゃんと確保できる規格のライフル銃なのかどうか。だいたい、ヒグマを倒すのに必要な最低限の弾のエネルギーは、2000~3000ft-lbs(フィートポンド)以上、ツキノワグマでも1500ft-lbsは必要だと言われています」

 フィートボンドとは、弾の威力(運動エネルギー)を表す単位であり、1ft-lbsは「1ポンド(約0.45kg)の物体を1フィート(約30.48cm)持ち上げるのに必要なエネルギー」のことだ。

写真はイメージ ©iStock.com

 こうしたクマを射つためのノウハウは、実際にクマを撃ったことのあるハンターに伝授してもらうことが不可欠となるが――。

「ただ実は、箱わな捕獲グマの止めさしではなく、本当にフリーな状態で歩き回っているクマを撃ったことがあるハンターというのは、北海道でも本州でも、意外と少ないんです。ですからノウハウを共有するといっても、そう簡単な話ではないと思います」