何よりも「クマを撃つのは、シカなど他の動物を撃つのとは違う難しさがある」と石名坂は言う。例えば、その強靭な生命力は、しばしばハンターの想像をも上回ってくる。

「以前、私の元同僚が“12番のハーフ”でちょっと遠いところのヒグマを撃ったんです。死なずにヤブに長時間潜伏されて大変だったんですが、最終的に倒した後でヒグマの姿を確認したところ、彼の撃った弾も1発が顔面、もう1発が肩にちゃんと命中していた。ですが、弾が頭骨と肩甲骨に弾かれていたんです」

 “12番のハーフ”とは、口径が12ゲージで、銃身内部の半分までライフリング(旋条)がほどこされた銃のことで、銃刀法改正で今年3月から「ライフル銃」と同じ扱いになった。サボットスラッグ弾と呼ばれる殺傷力の高い単発弾を発射するが、その弾が頭蓋骨に当たっても致命傷を与えるには至らなかったことになる。

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「猟友会に丸投げの駆除はもう限界」だという(写真はハンターの赤石正男氏)

「サボットスラッグ弾は近距離であれば殺傷力も高いのですが、普通のライフル弾より弾頭重量が重くて初速が遅い分、距離が離れるほどさらに速度が遅くなり、運動エネルギーも急速に落ちるので、威力は低下します。なので、もう少し近い距離なら骨を貫通していたと思うんですが、改めてヒグマの頑丈さを思い知りましたね」

ヒグマの「急所」はピンポイント

 当然のことながら、狙うべき「急所」は限られてくる。北海道庁の環境生活部自然環境局野生動物対策課がホームページ上で公開している「ヒグマ捕獲テキスト」によると、ヒグマの急所は〈脳や脊髄などの中枢神経〉と〈胸部(心臓、肺周辺)〉の2つの部位である。

「この中枢神経を射抜くことができれば、神経が切断されるのでクマは立っていられず、その場で崩れ落ちます。ただ、非常にピンポイントなので数センチずれただけで致命傷を与えることはできません。もう1箇所の胸部については、心臓や肺を撃ち抜けば確かに死ぬんですが、すぐ死ぬわけじゃないんです。心臓を撃たれても一定の距離は走るし、絶命するまでの間にヤブの中に逃げ込んで、そこで倒れるということが頻繁に起こります」

ヒグマの骨格と急所(北海道庁環境生活部自然環境局野生動物対策課「ヒグマ捕獲テキスト」より)

 そういう場合は、クマが逃げ込んだと思われるヤブの中に入って、その生死を確認しなければならなくなる。石名坂が苦笑いする。

「私の場合、あまりにもそれをやりすぎてやや感覚が麻痺しているんですが、正直、かなり危ない作業ではあります」

札幌市内の茂みにヒグマが隠れていた ©時事通信社

 手負いになったクマは、撃ったハンターに反撃してくるという話はよく聞くが、実際にそういう目にあったことはあるのだろうか。

「過去、30頭ぐらいは私が第一射手としてヒグマを撃ってますが、銃弾が命中したクマがそのままこっちに向かってきた経験はありません。基本的にはその場に斃れるか逃げるか、ですね」