自主規制のために“コミケ基準”が誕生

 このためコミケット準備会は、開催当日、事前提出されたサークルの頒布物(見本誌)に「性器の露骨な描写」がないかどうかをチェックし、法令に抵触する物は頒布させない体制を築いた。

 見本誌の提出は「コミックマーケット1」から続けられていたが、その内容を当日の開場前にチェックするようになったわけであり、程度によってはその場での修正を指示し、法に触れる場合は「販売停止」措置を取ることになったのである。このしくみは現在まで受け継がれている。

 とはいえ、警察当局から「描写」に対しての具体的な指導があったわけではなく、どこまでが許容範囲なのかは、まったくの手探りであった。そうしたなかで、準備会と各参加サークルとのあいだで模索した、いわば“コミケ基準”ともいえる描写の基準は、同人誌を印刷する各印刷所にも要請されることとなった。

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 現在、コミケ出身の作家や編集者は数多く、ある意味では現在の成人向け創作物にも“コミケ基準”が影響を及ぼしていると言えよう。

コミケは表現の場を守れるか

 この「コミケ幕張メッセ追放事件」に限らず、原油価格の高騰で紙が入手しづらくなったり、コロナ禍のように人が集まることが制限されるなど、表現の場そのものが失われる可能性は、つねに存在する。今般の決済代行会社による成人向けコンテンツや同人誌を取り扱う実店舗やオンラインサイトへの契約解除(実質的なクレジットカード会社による表現規制)も同様だ。

 ことほどさように表現の場というものは吹けば飛ぶような脆さがあるなかで、突風をしなやかに受け流す柳の葉のように、コミケは半世紀にもわたって同人活動の場を守り続けてきたのである。

 表現の場がオンラインに移行しつつある現在においても、コミケはその場を守り続けていくことだろう。

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