警戒待機と呼ばれるスクランブル任務にあたると24時間、滑走路脇の警戒待機所に詰める。当番にあたる隊員は4人。スクランブルは2機体制で行う。
スクランブルがかかると5分以内に飛び立つ2人は、脳血流低下によって視覚障害が起きるグレイアウトを防ぐための耐Gスーツを着用する。最初の2人にスクランブルが命じられると、残る2人が次のスクランブルに備えて耐Gスーツを着用する。1番手グループと2番手グループは約6時間おきに入れ替えられる。
A氏は「Gスーツは圧迫感があるので、装着しているだけでストレスになります」と話す。
「中国軍機が相手の時は心に余裕がありません」
警戒待機所では何をしているのか。A氏は「若いパイロットならフライトの勉強をしています。次のステップに進むための訓練のイメージアップです。中堅以上はパソコンで日常業務をこなしたり、テレビや漫画を見てリラックスしたりしています」と語る。
「でも、私の時代でも、待機に当たった日の7~8割は飛んでいました。だから、リラックスする暇もありませんでした。特に初めて待機の任務に就いた時は、食事も味がわからないくらい緊張した記憶があります」と話す。食事は待機所まで運んでもらえるが、食べている途中でスクランブルがかかり、箸やフォークを放りだして発進したことも何度もあるという。
那覇基地の場合、待機所を真ん中に挟んで、左右に格納庫が各2基配置してある。スクランブルになると電話とスピーカーで合図が来る。その瞬間、待機所のドアを開けて外に飛び出し、格納庫に走る。手前の格納庫まで15秒、奥の格納庫まで30秒とかからない。すぐに発進する。
A氏は「それでも、中国軍機が相手の時は心に余裕がありません」と話す。ロシア軍機の場合、日本列島を一周して沖縄方面に近づくといったパターンが多い。
「だから、あと何時間したら発進だという心の準備ができます。でも、中国軍機は大陸から上がった(発進した)としても、日本のADIZ(防空識別圏)にすぐ入って来ます」(A氏)
領空は日本の領土から12海里(約22.2キロ)の範囲までしかない。戦闘機ならわずか1分余で通過する距離だ。そのため、飛行プランが出されていない国籍不明機(アンノウン)がADIZに入った場合、空自は対領空侵犯措置を取る。