ただ、A氏は「たとえ、ロックオンではなかったとしても、30分も続けること自体は嫌がらせ、圧力だと言えます。最初と2回目の照射に時間差があり、しかも、1回目は5分で2回目は30分です。少なくとも2回目の照射では、上級司令部からプレゼンスを示せといった指示があったのではないでしょうか」と語る。
A氏によれば、安全保障環境が緊迫している東シナ海で対領空侵犯措置を取る場合、天候が悪くない限り、レーダーをなるべく使わないようにする。使っても相手に当たらないよう、なるべく機首を相手機に向けない対応をするという。
暗黙のルール
空自には「同じパイロットのスクランブル発進は1日3回まで」という暗黙のルールがあるという。A氏も1日3回飛んだ経験がある。
「その日は結構きつかったです。1回のフライトが2時間半くらいですから、3回だと7時間半。コックピットにいること自体がストレスですし、そこにスクランブルの緊張が加わりますから」(A氏)。
それでも警戒待機の任務中は集中していたが、翌朝になって待機所を離れると疲れがどっと襲って来たという。
日本近海での中国軍空母の活動活発化…さらに緊張を強いられるスクランブルの質
防衛省によれば、2024年度のスクランブル発進回数は704回だった。最多だった2016年度よりも400回以上減った計算になる。
A氏は「スクランブルが減っただけで、来ている相手機の数は減っていないのが実情です。むしろ、ドローン(無人機)も加わり、数は増えているでしょう」と語る。
空自の戦力だけでは対応しきれないので、スクランブルする条件を厳しくして、なるべく絞って対応した結果なのだという。さらに、中国軍空母が日本近海での活動を活発化させているため、スクランブルの質がさらに緊張を強いられるものになっている。
防衛省によれば、遼寧は6日から12日にかけて、戦闘機やヘリによる発着艦をのべ260回繰り返したという。
A氏は「最初の4機がスクランブルで出た後、さらに必要になれば、他の戦闘機を振り向けます。今回も相当大変だったのではないでしょうか」と話す。A氏によれば、警戒待機をしても、通常の1000円にも満たない夜間勤務手当が出るだけだという。
A氏は「パイロットが毎月もらう航空手当に含まれているということなんでしょう」と語るが、一歩間違えれば武力行使に至る可能性もある任務としては安すぎる感が否めない。