二代目『相棒』抜擢から手堅いバイプレイヤーに…

 ところが徐々に俳優としてのいかがわしさは鳴りを潜めていく。2009年、刑事ドラマ『相棒』(テレビ朝日系)で水谷豊演じる杉下右京の二代目相棒・神戸尊に抜擢され、3年間、メインキャストとして出演した。当初、イギリス紳士的な右京と及川のノーブル感はかぶるのではないかと筆者は気になったが、及川は美輪様と同じく右京を見事にアシストしてみせた。

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 元来、知性と上品さがある及川だから、相棒ファンの高齢者の支持も得て、俳優として盤石になっていく。そこには皇族が民間人になったような雰囲気があった。日曜劇場『半沢直樹』の主人公の気のいい同僚役、『グランメゾン東京』では「レシピ動画の貴公子」と呼ばれていた料理研究家など、俳優としては手堅い役割を演じてきた。

 ミュージシャンが俳優活動を並行し、才能を発揮することは、福山雅治、星野源、峯田和伸、田口トモロヲなど枚挙に暇なく、珍しくはない現象ではあるが、及川光博が特異なのは、ミュージシャンとしては極めて派手なのに、俳優としては、バイプレイヤーに徹してきたことだ。たぶん、主人公だと華やかになりすぎてしまうのだろう。いや、脇役で目立ちすぎてないことのほうが難易度は高い気がするが。

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 及川のなぜか目立ちすぎない特性がついに花開いたのが、ドラマ『ぼくたちん家』(日本テレビ系)である。連続ドラマ主演としては21年ぶり、GP帯でははじめての主演だ。

『ぼくたちん家』公式Xより

 50代にしてはじめてのGP帯主演で及川が演じたのは、中年のゲイ。動物園で飼育係をしていて、歌が大好きな波多野玄一は自身をおじさんと卑下し、幸せな未来をあきらめかけていたが、偶然出会った中学教師・索(手越祐也)に恋をする。そこに両親との関わりが薄い中学生・ほたる(白鳥玉季)が加わって、奇妙な3人の共同生活がはじまった。3人は家を買うことにして……。

 いわゆる一般的な家族の形とは違う3人の関わり。それぞれが、いわゆる一般的とされている形からはみ出しているとはいえ、それでも生きている。どんな形でもいいではないか、誰だって幸せな未来をあきらめることはないのだということを、太宰治の「恋と革命」(『斜陽』より)という言葉をキーワードにして描いたドラマは、名作の誉れも高い『すいか』(03年)や『野ブタ。をプロデュース』(05年)などを手掛けた河野英裕プロデュースで、脚本は彼が見込んだ新人の松本優紀、インクルーシブプロデューサーとして白川大介が参加しているという、新たな価値観を発見したい意欲を感じる座組である。

及川光博が「ミッチー」という“透明の着ぐるみ”を脱いだ

 そのなかで、目立たないように穏やかにひそやかに生きている主人公を演じる及川。主人公にしてはおとなしめに見えるこの役について、及川はこのように語っている。